ご相談者は、小学生と就学前のお子様2人を育てる30代の女性です。前年に夫の不貞行為が分かり、夫婦で話合いを重ねていたところ、その年の暮れに夫が一方的に家を出て別居が始まりました。別居後、夫からご相談者に手渡された生活費は、年明けの一度に受け取った現金4万円だけです。住宅ローンと光熱費の一部は夫の口座から引き落とされていたものの、母子3人の生活を維持するには到底足りません。しかも夫からは、引落し先を変更するよう求められ、変更しないなら口座を解約するとも告げられていました。ご相談者は扶養の範囲内でパート勤務をしていたものの、お子様がまだ小さく、勤務時間を増やすことも簡単ではありません。実家から食事や現金の援助を受けてしのいでいた時期に、当事務所へご相談にお越しになりました。
ご相談内容と方針
お話をうかがって最優先に据えたのは、月々の生活費を確保することでした。理論上は、夫婦は別居していても、収入に応じて生活費を分担する義務を負います(民法760条)。実務上は、任意に支払われないまま話合いを続けても入金にはつながらず、家庭裁判所の調停や審判で金額と支払期限を確定させて初めて動き出すことがほとんどです。ご相談者は、ご依頼の前にご自身で婚姻費用分担の調停を申し立てておられ、これに対して夫から離婚の調停が申し立てられていました。当事務所は、二つの調停が同じ期日で進む状態でご依頼を受け、まず婚姻費用の額を確定させることを最優先に据えます。離婚の条件については、お子様2人の親権を確保することを譲れない一線とし、養育費、面会交流、年金分割、財産分与までを一度の手続でまとめて取り決めることを目標にしました。ご相談者の収入では弁護士費用の負担が重いため、民事法律扶助を利用して着手しています。
第1回の期日から代理人として出席し、別居後に途絶えた生活費の問題を最初の争点として提示しました。第2回の期日では意見書を提出して別居に至る経緯と別居後の生活状況を整理し、あわせて家計の支出を費目ごとに一覧にした資料を出して、どの費用を誰が負担しているのかを数字で示しています。婚姻費用は、双方の収入資料をそろえたうえで算定資料に当てはめて金額を詰めていく手続ですが、この事案では保育料や学校関係の費用をどちらが負担するかという点でも調整が必要でした。話合いを重ね、第4回の期日で婚姻費用分担の調停が成立し、離婚が成立するまでの生活費が確定します。
手続の途中では、引越しの際にご相談者が誤って持ち出した相手方の私物の返還をめぐってトラブルが生じました。期日と期日の間に内容証明郵便を複数回送って直接交渉し、返還する物の一覧を作成して相手方に示したうえ、調停期日の場で引き渡す段取りを整えました。この時期に、本人同士のやり取りをやめて連絡窓口を代理人へ一本化したことで、ご相談者が直接の対応に消耗せず、条件の交渉に集中できる状態を作りました。離婚の条件については、親権を母とすることを前提に、養育費の額と終期、面会交流の頻度と時間帯、年金分割の按分割合を一つずつ詰めていきます。面会交流は、月1回という頻度だけを決めても後で運用が食い違うため、平日と休日で時間帯を分け、長期休暇中の宿泊についても条項に書き込む形で具体化しました。
解決の結果
第1回の期日から約5か月半、6回の期日を経て調停離婚が成立しました。お子様2人の親権者はいずれもご相談者と定められ、養育費は1人につき月額3万5000円、2人で月額7万円を、それぞれ20歳になる月まで支払う内容です。お子様に入学や治療で多額の出費が生じたときは、その都度負担を協議する定めも置いています。離婚にともなう解決金は150万円の支払を受ける内容で合意し、そのうち108万円は成立の月内に一括で、残りは月2万円ずつの分割とされました。分割金の滞納が4万円に達したときは期限の利益を失い、残額を直ちに支払う条項も付けています。財産分与としては自動車の所有権が移転され、年金分割の按分割合は0.5と定められました。面会交流は月1回程度とし、平日は17時から19時、休日は10時から19時までと時間帯を明記したうえ、夏休み中に1泊程度の宿泊をともなう交流を認める内容です。離婚が成立するまでの婚姻費用は月額8万2770円で確定しており、下のお子様の保育料は夫が別途負担することも取り決められました。他方で、それまで夫の口座から引き落とされていた上のお子様の学校関係の費用、ご相談者名義の携帯電話料金、ご相談者が使う自動車の保険料については、以後ご相談者が負担することも併せて定めています。
別居中に生活費が止まると、目の前の支払いに追われて、相手方が提示した条件をそのまま受け入れてしまいがちです。婚姻費用を先に確定させると、生活の見通しが立つぶん、親権や養育費の条件を落ち着いて詰められるようになります。この事案でも、婚姻費用が決まった第4回の期日以降、離婚の条件に関する協議が具体的に動きました。なお、婚姻費用や養育費の算定に使われる資料は2019年に改訂されており、同じような収入でも金額の目安は当時と異なることがあります。養育費の終期を20歳と定めた点についても、成年年齢が18歳に引き下げられた現在も、当事者の合意で20歳や大学を卒業する時期までと定めることができます。
親権については、2026年4月1日に施行された改正民法により、離婚後も父母双方を親権者と定めることが選べるようになりました。父母の協議で共同とするか一方のみとするかを決め、協議が調わないときは家庭裁判所が判断します。本件は改正前の取扱いによるもので、母を単独の親権者と定めていますので、現在ご検討中の方は前提が異なる点にご留意ください。面会交流は、改正後の家事事件手続法の見出しや裁判所の手続名では親子交流と呼ばれますが、頻度だけを決めて時間や場所を後回しにすると運用でもめやすいという点は変わりません。別居直後の生活費の確保については婚姻費用の仮払いと緊急対応のコラム、交流の条件の決め方については面会交流の決め方と会わせてもらえないときの対応のコラムもあわせてご覧ください。
弁護士からのご案内
離婚と男女問題のご相談は、初回30分を無料でお受けしています。別居したのに生活費が入ってこない、離婚調停を申し立てられて何から手をつければよいか分からないという段階からでも、婚姻費用の目安と手続にかかる期間をその場でお伝えできます。お電話(072-248-4848)またはお問い合わせフォームからご予約ください。ご依頼にかかる費用は費用のご案内にまとめています。
事案により結果は異なり、同種の結果をお約束するものではありません。守秘義務のため、ご本人が特定されないよう事案の細部は変更しています。