ご相談者は、会社にお勤めの30代の男性です。結婚して3年ほど、お子さんが一人いました。
出産のために実家へ戻った奥さまは、そのまま実家にとどまり、ご相談者のもとへは戻りませんでした。しばらくはご相談者が折りをみて訪ねていましたが、結婚から1年半ほどが経ったころには、お子さんの郵便物の転送届が出され、連絡は電話とメールだけという状態になっています。その間に、離婚すること、そしてお子さんの親権者を母と定めることについては、二人の話合いでおおむね折り合いがついていました。
残っていたのは養育費の額です。ご相談者は月4万円を、奥さまは月6万円を示して、そこから先へ進みません。奥さまからは、裁判所の手続はご相談者の側から起こしてほしいという求めがありました。お子さんはまだ2歳になる前です。長く争って関係をこじらせたくないというのが、ご相談者の率直な気持ちでした。
ご相談内容と方針
うかがったご希望は、養育費の額を納得できる水準で決めること、財産の清算も含めてこの機会に一度で終わらせること、そして遠方にある家庭裁判所へ何度も足を運ばずに済ませることの三つでした。
理論上は、養育費の額は父母それぞれの収入と、子の年齢と人数をもとに算定されます。実務では、家庭裁判所が用いる算定表の幅のなかで、双方の事情を踏まえて額が決まっていきます。本件のように主張の開きが月2万円であれば、算定表の水準を共通の物差しにすることで、折り合える見込みがありました。
手続の面では、調停は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法245条1項)。本件では奥さまの生活の拠点が遠方にあり、そちらの家庭裁判所で手続を進めることになりました。期日のたびに移動するとなれば、費用も時間もかかります。争点が一つしかないのに回数が重なること自体が、ご相談者にとって損失でした。
そこで、争点を養育費に絞っていることを手続の入口で裁判所に示し、期日の回数を増やさずに済む組み立てを採ることにしました。財産についても、こちらから先にすべて明らかにして、疑いの余地を残さない方針です。
申立書には、婚姻からの経過、親権について合意ができていること、養育費について双方がどのような経緯で現在の主張に至ったかを、事実として書き込みました。離婚の原因について相手方を責める記載は置いていません。早期に円満に終えることを優先するという姿勢を、書面そのもので示す狙いです。
財産については、預貯金の残高、従業員持株会を通じて保有する株式、生命保険の解約返戻金、婚姻前に購入した自動車まで、一件ずつ挙げて開示しました。そのうえで、社内預金制度の廃止に伴う払戻しや、確定拠出年金への移行に伴う返金のように、婚姻後の二人の協力によらずに入ってきたと考えられる分を計算して切り分け、その考え方を書面で示しています。株式と保険についても、婚姻から実質的な別居までの期間に対応する分だけを取り出して金額を算出しました。分けるべきものと分けなくてよいものの線引きを、こちらから数字で示して議論の土台を作った形です。
申立てと同じ日に、裁判所あての上申書を提出しました。争点が養育費のみであること、ご相談者が遠方から出頭する必要があることを述べ、早い時期の期日を、できれば午後の時間帯に指定してほしいと求めています。あわせて、申立書の写しを裁判所からの送達を待たずに奥さまへ直接郵送し、期日の前に内容を読んでおいてもらえるようにしました。
期日では、算定表の水準を共通の前提に置いて調整が行われ、双方の示していた額の中間で折り合いがつきました。受け取る側が再婚した場合の取扱いと、収入に変動があった場合の減額についても、申立て後に用意していた条項案に沿って盛り込まれています。後になって事情が変わったときに、改めて手続を起こさずに済むようにするためです。
解決の結果
申立てから2か月足らず、2回目の期日に、調停で離婚が成立しました。
お子さんの親権者は母と定めました。養育費は月5万円で、お子さんが満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日にお子さん名義の口座へ振り込む方法としています。養育費を受け取る側が再婚したときはその月以降の支払いを免除し、受け取る側の収入の状況に変更があったときは相当額を減額するという条項も置きました。
金銭の清算は、財産分与として75万円、奥さまが負担していた住まいの保証金の立替分の返還として75万円、合計150万円を支払う内容で確定しました。奥さまが婚姻時に用意した家財道具は、奥さまの費用負担で運び出すこととし、そのほかには名目のいかんを問わず互いに請求しないという清算条項を置いています。申立ての段階で示していた金額からは譲る形になりましたが、争点を増やさずに区切りをつけられました。
成立後には、当事者の間で取り交わす確認書を用意しました。運び出された物品が調停で定めたものの全部であることを互いに確認したうえで、養育費の支払期間中は、住所や連絡先、勤務先が変わったとき、就職したとき、再婚したときに、10日以内に書面で相手へ知らせること、お子さんの氏を変更したうえで新しい戸籍の謄本を送ること、氏が変わった後の振込先の変更に支払う側が同意することを、書面にしています。
調停の期日が重なる原因の多くは、争点が整理されないまま最初の期日を迎えることにあります。本件のように決めるべき点が一つに絞れている場合は、申立ての段階でそれを書面に示し、財産の資料も先に出してしまうほうが、結果として早く終わります。遠方の裁判所が管轄になるときは、この差がそのまま交通費と仕事を休む日数に表れます。相手方と話ができる関係であれば、合意で近くの家庭裁判所を選ぶ余地もありますから、申立ての前に検討しておく価値があります。
支払う側にとっても、額を決めないまま離婚を急ぐことは勧められません。取決めがないまま時間が過ぎると、後から過去の分をまとめて請求される場面が出てきますし、2026年4月1日に施行された改正民法では、協議上の離婚で子の監護費用の分担を定めなかった場合の法定養育費の制度が設けられました(民法766条の3)。請求できるのは離婚の時から主にその子を監護する側で、対象となるのは、協議で定めた日、審判が確定した日、子が成年に達した日のいずれか早い日までです。支払う側が、支払能力を欠くことやその支払いによって生活が著しく窮迫することを証明したときは、全部または一部の支払いを拒めるという定めもあります。額は最低限の水準をもとに決まりますから、事情に応じた取決めを自分たちで作っておく意味は、むしろ大きくなっています。
受け取る側の再婚を免除の条件とする条項は、本件でも置かれました。もっとも、現在の実務では、受け取る側が再婚したというだけで養育費が当然になくなると考えられているわけではありません。再婚相手と子が養子縁組をしたかどうかなど、扶養の実態によって結論は変わりますから、条項を置く場合でも、どのような場合を指すのかを具体的に書いておくほうが争いになりません。
終期の定め方にも触れておきます。成年年齢は18歳ですが(民法4条)、養育費の支払いを20歳までとすることも、大学を卒業する時期までとすることも、当事者の合意で定められます。進学の予定があるかどうかで必要な期間は変わりますから、年齢だけで決めずに、見通しを話し合っておくほうが後の争いを避けられます。
親権についても制度が変わりました。協議上の離婚をするときは父母の双方または一方を親権者と定めることになり、2026年4月1日以降は、双方を親権者とすることも選べます(民法819条1項)。ただし、一方から他方への暴力などがあって父母が共同して親権を行うことが困難と認められる場合には、一方を親権者と定めることになります(同条7項)。どちらを選ぶかで進学や医療の場面での決め方が変わってきますから、親権者の定めは子の生活に即して考える必要があります。離れて暮らす親と子が会う取決め(家庭裁判所の手続では親子交流と呼ばれています)も、離婚の条件を詰める段階で一緒に決めておくほうが、後から持ち出すより整いやすいところです。
連絡先を知らせ合う約束も、見落とされがちですが実務では役に立ちます。支払いが長期間にわたる以上、住所や勤務先が変わることは当然に起こります。変更を知らせる約束を書面に残しておくと、支払いが滞ったときの手続も、子の氏の変更といった事務も、余計な手間をかけずに進められます。
弁護士からのご案内
養育費の額が決まらない、離婚することは決まっているのに条件の話が進まないというご相談は、初回30分無料でお受けしています。請求する側か支払う側かを問わず、収入の資料を拝見しながら、算定表の水準と取決めに盛り込んでおくべき条項をご一緒に整理します。お電話(072-248-4848)またはお問い合わせフォームからご予約ください。調停の進み方は離婚調停の進め方、子が成人した後の学費や扶養の考え方は子どもが成人してからの離婚にまとめています。ご依頼にかかる費用は費用のご案内をご覧ください。
事案により結果は異なり、同種の結果をお約束するものではありません。守秘義務のため、ご本人が特定されないよう、金額・期間などの数値を含めて事案の細部は変更しています。