【堺 弁護士が解説】カスハラ対策の義務化|会社が講じる措置と対応手順 |堺市の弁護士【田渕総合法律事務所】堺東駅5分

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【堺 弁護士が解説】カスハラ対策の義務化|会社が講じる措置と対応手順

閉店間際のレジ前で、商品の交換を断られた客が声を荒らげはじめる。対応したアルバイトの学生が謝っても収まらず、話はいつの間にか「店長を出せ」「土下座しろ」「ネットに書いてやる」へと変わっていく。翌朝、その学生から退職の連絡が届いた。

このような出来事を「接客業にはつきもの」として現場に任せてきた会社は少なくないはずです。2026年10月1日、改正された労働施策総合推進法が施行され、顧客や取引先などによる、社会通念上許容される範囲を超えた言動、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)から社員を守るための措置は、規模や業種を問わず全ての事業主の義務になりました。

この記事では、条文と厚生労働省の指針に沿って、カスハラに当たる言動の線引き、会社が講じなければならない措置、現場で起きたときの対応の順序を整理します。

この記事のポイント

  • 2026年10月1日から、カスハラ対策は全ての事業主の義務です(労働施策総合推進法33条1項)。方針の明確化、相談体制の整備、起きた後の対応、悪質な言動への抑止策などを講じる必要があります。
  • 顧客の苦情がすべてカスハラになるわけではありません。要求の内容、または手段や態様が社会通念上許容される範囲を超え、社員の就業環境が害される場合に該当します。正当な申入れまで退けると、別の問題を招きます。
  • 措置を講じていない会社には、厚生労働大臣による助言・指導・勧告があり、勧告に従わなければ公表の対象になります。社員が心身の不調を来せば、安全配慮義務違反として損害賠償を求められるおそれもあります。
  • 社内ルールの作り方や、警告文・出入禁止の通知に迷ったときは、費用のご案内を確認のうえ、お問い合わせからご相談の日時をお決めください。

2026年10月1日から何が変わったのか

条文に書き込まれた事業主の義務

令和7年法律第63号による改正で、労働施策総合推進法の第10章に、顧客等の言動に起因する問題についての規定が加わりました。中心になるのは33条1項です。事業主は、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業に関係を有する者(顧客等)の言動であって、社員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものによって、社員の就業環境が害されることのないよう、相談に応じて適切に対応するための体制の整備、抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない、と定められています。

改正法は2025年6月11日に公布され、カスハラに関する部分は2026年10月1日に施行されました。条文はe-Gov法令検索の労働施策総合推進法で確認できます。措置の具体的な中身は、厚生労働大臣が定める指針(令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)に書かれています。指針やリーフレットは厚生労働省のハラスメント防止のページにまとめて掲載されています。

同じ日から、就職活動中の学生やインターンシップの参加者など、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止も事業主の義務になりました。採用面接やOB・OG訪問の場面を抱える会社は、あわせて点検しておくと手戻りがありません。

パワハラ防止義務との違い

2020年6月(中小企業は2022年4月)から義務になったパワハラ防止措置(現行31条)は、上司や同僚など社内の人間関係を前提にしていました。カスハラは、言動をする側が社外の人間である点が根本的に異なります。会社は顧客に懲戒処分を科すことができず、取引先に対しては契約関係が絡みます。社内のルールだけで完結しない分、方針を顧客側にも示すことや、警察や弁護士との連携まで含めて準備しておく必要があります。

もう一つの違いは、正当な苦情との境目がパワハラ以上に見えにくいことです。商品に欠陥があった、説明が足りなかったという場面では、強い口調の申入れにも理由があります。後で述べるとおり、指針もこの点を繰り返し注意しています。

対象になる会社と社員

義務を負うのは、従業員数や資本金にかかわらず、社員を雇っている全ての事業主です。社員を雇って個人で店舗を営む方や、医療法人、社会福祉法人も含まれます。守るべき社員には、正社員だけでなくパートタイマー、アルバイト、契約社員も含まれ、派遣社員については派遣先も措置を講じる必要があります。

「職場」は事務所や店舗の中に限られません。顧客の自宅、取引先の事務所、打合せに使った飲食店であっても、社員が業務を遂行している場所であれば職場に当たります。電話やメール、SNS上で行われる言動も対象です。訪問介護、配送、設備点検など、社員が一人で顧客先に出向く業種ほど、この点を意識した準備が要ります。

カスハラに当たる言動の線引き

指針が示す三つの要素

指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを、顧客等の言動であること、社員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであること、それによって社員の就業環境が害されること、の三つを全て満たすものと説明しています。

真ん中の「社会通念上許容される範囲を超えた」かどうかは、言動の内容が契約内容からして相当性を欠くか、または手段や態様が相当でないかによって判断されます。言動の目的、経緯や状況、業種・業態、言動の頻度や継続性、社員の心身の状況などを総合的に考慮するとされ、内容と態様のどちらか一方だけが行き過ぎている場合でも該当しうる点に注意が必要です。

就業環境が害されたかどうかは、平均的な労働者の感じ方を基準にします。同じ状況に置かれた一般的な社員が、働くうえで看過できない支障が生じたと感じるかどうか、という見方です。繰り返しの有無は考慮されますが、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば、一回の言動でも該当する場合があると指針は述べています。

内容の問題と手段・態様の問題

指針が典型例として挙げているものを、二つの軸で整理すると次のようになります。いずれも限定列挙ではなく、個別の事情によって判断が変わりうるとされています。

軸 指針に挙げられている例
要求の内容が行き過ぎている 性的な要求、社員のプライバシーに関わる要求、契約内容を著しく超えるサービスの要求、契約金額の著しい減額の要求、商品やサービスと無関係な不当な損害賠償要求
身体的な攻撃 殴る・蹴る・叩くなどの暴行、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける
精神的な攻撃 店の物を壊すことやネットに悪評を書くことをほのめかして脅す、社員のプライバシー情報をSNSに投稿する、人格を否定する、土下座を強要する、無断で撮影する
威圧的な言動 大声を上げて社員や周囲を威圧する、反社会的な言動をする
継続的・執拗な言動 同じ質問を執拗に繰り返す、話のすり替えや揚げ足取り、同じ内容のメールを繰り返し送りつける
拘束的な言動 長時間の居座り、長時間の電話による拘束

正当な申入れとの境目

指針は、顧客等からの苦情の全てがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであると明記しています。社会通念上の範囲を超えるかどうかを判断するときには、会社や社員の側の不適切な対応が言動の原因になっている場合もあることに留意するよう求めています。

障害のある方から、障害者差別解消法で禁止される不当な差別的取扱いをしないよう求められることや、社会的障壁の除去を求める意思を表明されることも、カスハラには当たりません。過重な負担にならない範囲で合理的な配慮を提供する義務が別にあります。カスハラ対策を理由に、こうした申出まで門前払いにする運用は避けなければなりません。

境目で迷う場面の多くは、最初の申入れには理由があったのに、対応がこじれるうちに要求や口調が行き過ぎていったという経過をたどります。どの時点から許容範囲を超えたのかを後から説明できるよう、やり取りを時系列で残しておくことが、線引きの判断そのものを助けます。

会社が講じなければならない措置

指針は、事業主が講じなければならない措置を大きく五つに分けています。順に見ていきます。

方針を明確にし、社員に周知する

最初に求められるのは、カスハラには毅然とした態度で対応し、社員を保護するという方針を明らかにして、管理職を含む社員に周知・啓発することです。社内報や社内ホームページへの掲載、研修の実施などが例として挙がっています。トップメッセージとして発信することも考えられるとされています。

方針と一緒に、カスハラが起きたときの対処の内容もあらかじめ決めて周知しておく必要があります。指針が例に挙げているのは、すぐに管理監督者へ報告して指示を仰ぐこと、できる限り一人で対応させず必要に応じて管理監督者が代わること、やり取りを録音・録画すること、十分に説明してもなお要求が続く場合は一定の時間で退店を求めたり電話を切ったりすること、犯罪に当たりうる言動は警察へ通報すること、法的な手続が必要な場合は弁護士に相談すること、などです。

方針を顧客側にも示すことは、被害の防止に効果的と考えられると指針は述べています。店頭への掲示やホームページへの掲載が、その方法として考えられます。

相談窓口を決め、担当者が対応できるようにする

社員がカスハラについて相談できる窓口をあらかじめ定め、周知しなければなりません。担当者を決める方法のほか、外部の機関に相談対応を委託する方法も認められています。パワハラやセクハラの窓口と一体的に設けることも考えられるとされています。

窓口に求められるのは、カスハラが現に起きている場合だけでなく、起きるおそれがある場合や、該当するかどうか微妙な場合にも広く相談に応じることです。被害を受けた社員が萎縮して相談をためらうことを前提に、相談者の心身の状況や受け止め方に配慮しながら対応する必要があります。窓口の担当者向けに対応マニュアルを用意し、研修を行うことも例として挙がっています。

起きた後に事実を確認し、被害者に配慮する

相談があったときは、事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。その場で管理監督者が確認する、相談者から話を聞く、必要に応じて周囲の社員から聴取し、録音・録画などの客観的な証拠を確認する、といった方法が指針に示されています。行為者が他社の社員である場合は、その会社に事実確認への協力を求めることも含まれます。

事実が確認できたら、速やかに被害者への配慮の措置を講じます。管理監督者が代わって対応する、被害者と行為者を引き離す、担当を変更する、メンタルヘルスの相談につなぐ、といった措置です。あわせて、方針を改めて周知し、接客や説明の仕方に原因があった場合はその改善を図るなど、再発防止の措置も求められます。指針は、事実が確認できなかった場合にも同様の再発防止策を講じるよう求めている点に注意が必要です。

悪質な言動への抑止策を決めておく

今回の改正で特徴的なのが、抑止のための措置です。社員に過度な要求を繰り返すなど、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定めて周知し、その方針どおりに対処できる体制を整えなければなりません。

指針が対処の例として挙げているのは、警察への通報、行為者への警告文の発出、法令の範囲内での商品販売やサービス提供の停止、店舗や施設への出入禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てです。業法によってサービスの提供が義務づけられている業種や、提供を止めると顧客の生命や健康に重大な影響が及ぶ業種では、個別の事情に応じた方針が要ると指針は注意しています。医療機関や介護事業所、公共交通、インフラ関連の事業者は、ここを一般の小売業と同じに考えることができません。

相談者のプライバシーを守り、不利益な扱いをしない

最後に、上の措置とあわせて、相談者のプライバシーを守るための措置を講じて社員に周知することと、カスハラについて相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を定めて周知することが求められます。不利益取扱いの禁止は法律そのもの(33条2項)にも書かれています。就業規則や服務規律にこの旨を明記しておくのが確実です。

【弁護士からひとこと】カスハラ対策は、方針の文書を一枚作れば終わるものではなく、現場で誰が何分で交代し、どの段階で警察や弁護士に連絡するかまで決めておいて初めて機能します。初回のご相談(30分5,500円・税込)では、いま社内にある接客マニュアルや就業規則を拝見しながら、足りない部分を一緒に確認します。お電話は072-248-4848、お問い合わせフォームからもご予約いただけます。

措置を講じなかった会社が負うリスク

行政による助言・指導・勧告と公表

厚生労働大臣は、事業主に対して助言、指導または勧告をすることができ、33条1項・2項に違反している事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができます(42条)。事業主に報告を求めることもでき(45条1項)、報告をしなかったり虚偽の報告をしたりした者は20万円以下の過料に処せられます(51条)。

罰金や拘禁刑のような刑事罰は定められていませんが、企業名の公表は採用や取引に直結します。人手不足の業種では、求職者が企業名で検索したときに何が表示されるかを軽く見ることはできません。

社員から責任を問われる場面

民事上の責任は、法改正の前から問題になっていました。使用者は、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。カスハラを放置した結果、社員がうつ病を発症したり退職に追い込まれたりした場合、安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求められるおそれがあると、複数の文献が指摘してきました。

今回の改正で講ずべき措置の内容が指針として具体的に示されたことで、会社がどこまで備えていたかを測る物差しがはっきりしました。指針が挙げる措置を何も講じていなかったという事情は、紛争になったときに会社に不利に働くと考えておいたほうがよいでしょう。

社員と取引先が離れていくこと

数字に表れにくいのが、人の流出です。カスハラを受けた社員が「会社は守ってくれなかった」と感じれば、本人だけでなく、その様子を見ていた同僚も離れていきます。指針も、カスハラに起因する問題として、意欲の低下による職場環境の悪化、生産性の低下、社員の健康状態の悪化、休職や退職、それに伴う経営的な損失を挙げています。

現場でカスハラが起きたときの対応の流れ

その場での初動

最初にすることは、対応している社員を一人にしないことです。すぐに上席へ報告し、指示を受けるか、上席が代わって対応します。対応の場所は、他の客の目がある売り場の中央よりも、出入口に近く複数の社員の目が届く場所が向いています。密室に招き入れると、居座りや大声の被害が大きくなりがちです。

相手の言い分に理由があるかどうかは、この段階でいったん切り分けます。商品の不具合や説明不足があれば、その点は率直に認めて対応を示します。一方で、提示した対応を超える要求が続く場合は、説明を尽くしたことを確認したうえで、会社としてこれ以上の対応はできないことを伝えます。

時間を区切り、退去を求める

十分に説明してもなお同じ要求が続く場合、指針は、一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりすることを対処の例に挙げています。何分を目安にするかは業種によって異なりますが、社内で目安を決めておくと、現場の社員が自分の判断で打ち切る負担を背負わずに済みます。

退去を求めても居座る場合、正当な理由がないのに、要求を受けたにもかかわらず建造物から退去しない行為は、不退去罪に当たりえます(刑法130条、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)。害を加える旨を告げて脅す言動は脅迫罪(同法222条)、脅迫や暴行によって義務のないことをさせる行為は強要罪(同法223条)、威力を用いて業務を妨害する行為は威力業務妨害罪(同法234条)に当たる可能性があります。脅したり暴行を加えたりして土下座をさせれば強要罪に当たりえ、させられなかった場合も未遂として処罰の対象になります。こうした段階に至ったら、ためらわずに110番通報してかまいません。

記録の残し方と個人情報の扱い

後の判断も、警察や弁護士への相談も、記録がなければ進みません。日時、場所、相手の氏名や連絡先(分かる範囲で)、言動の内容、対応した社員の名前、要した時間を、その日のうちに書き残します。電話の録音や防犯カメラの映像は、上書きされる前に保存しておきます。

録音・録画をするときは、個人情報保護法などを守り、顧客の個人情報を適切に扱う必要があると指針は注意しています。録音していることを告げる運用にするか、利用目的をどう示すかは、事前に決めておくと現場が迷いません。個人情報の取扱いについては、改正個人情報保護法のコラムもあわせてご覧ください。

警告文と出入禁止の通知

同じ人物による迷惑行為が繰り返される場合は、書面で警告します。警告文には、確認できた言動の日時と内容、それが社員の就業環境を害していること、今後同様の言動があれば来店や問合せへの対応を断ること、法的措置を検討することを、感情を交えずに記載します。社名で出すか弁護士名で出すかは、相手の反応の見込みによって選びます。弁護士名の通知をきっかけに連絡が止まる例もありますが、相手方の反応は事案によって異なります。

出入禁止は、施設の管理権に基づいて求めることができますが、生活に必要なサービスを提供している事業者や、法律で提供義務を負う事業者は、断れる範囲に制限があります。迷う場合は、通知を出す前に相談されることをお勧めします。

仮処分と損害賠償請求

警告後も来店や架電が続く場合には、民事保全法に基づき、面談の強要や架電の禁止、立入りの禁止を求める仮処分を裁判所に申し立てることが考えられます。指針も抑止策の例としてこれを挙げています。業務が止まったことによる損害や、対応に要した費用について、損害賠償を請求する場面もあります。

SNSに社員の実名や写真を投稿された場合は、削除の請求や発信者情報の開示請求を並行して検討します。手続の流れはネットで個人情報を晒されたときのコラムや名誉毀損・誹謗中傷の基準を解説したコラムで説明しています。

就業規則とマニュアルに書いておく項目

指針の措置を社内の文書に落とし込むと、おおむね次の項目になります。すでにパワハラ防止規程がある会社は、その規程にカスハラの章を加える形でも構いません。

文書 書いておく項目
基本方針 カスハラには毅然と対応し社員を守ること、カスハラの定義と例、正当な苦情には誠実に対応すること
対応マニュアル 報告の手順、交代する基準、対応を打ち切る目安の時間、退去を求める際の言い方、警察へ通報する基準、録音・録画の方法
相談窓口の案内 窓口の担当者と連絡方法、外部窓口の有無、相談者のプライバシーを守ること
就業規則・服務規律 相談や事実確認への協力を理由に不利益な取扱いをしないこと、自社の社員が他社の社員にカスハラをした場合の懲戒
悪質事案の対処方針 警告文の発出、サービス提供の停止、出入禁止、仮処分の申立てを判断する部署と決裁の流れ

文書を整えたら、社員に周知するところまでが措置の一部です。研修は、その代表的な方法です。指針は、労働者や労働組合の参画を得てアンケートや意見交換を行い、運用状況を把握して見直すことが重要だとも述べています。衛生委員会を活用する方法も例に挙がっています。

小規模な会社が取りかかる順番

社員数十人規模の会社で、人事担当者が他の業務と兼任している場合、全てを一度にそろえるのは難しいはずです。私がご相談を受ける際は、次の順序で進めることをお勧めしています。

ここで挙げる措置は、いずれもすでに法律上の義務になっているものです。そのうえで着手の順序を考えると、最初に手を付けたいのは、現場の対応手順を一枚の紙にまとめることです。誰に報告するか、何分で上席が代わるか、どうなったら110番するかが書いてあるだけで、現場の社員の負担は大きく変わります。続いて、相談窓口を決めて社員に知らせます。担当者を決めたら、相談を受けたときの留意点をまとめた簡単なマニュアルを渡し、その担当者が不在のときの代わりも決めておきます。

その次に、基本方針を文書にして周知し、就業規則に不利益取扱いをしない旨を書き加えます。最後に、悪質な事案にどう対処するかの方針を決め、警告文の雛形や相談先の弁護士を確保しておきます。

自社の社員が加害側になる場合

カスハラは、受ける側だけの問題ではありません。営業担当者が下請先や仕入先に無理な値引きを迫る、発注者の立場を背景に取引先の社員を怒鳴りつける、といった言動は、相手方の会社から見ればカスハラです。

改正法は、事業主に対し、自社の社員が他社の社員に対する言動に必要な注意を払うよう研修などの配慮をする努力義務を課しています(34条2項)。事業主や役員自身にも同じ注意を払う努力義務があります(同条3項)。他社から事実確認などへの協力を求められたときは応じるよう努めなければならず(33条3項)、指針は、協力を求められたことを理由に契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないとしています。事実が確認できた場合に、就業規則に基づいて行為者を懲戒することも望ましいとされています。

社員を懲戒する場面では、就業規則の根拠と手続が問われます。注意指導から懲戒までの進め方は、問題社員への対応を解説したコラムで詳しく説明しています。

社員の立場からカスハラ被害を相談するとき

この記事は主に会社向けに書いていますが、カスハラを受けている社員の方からのご相談もお受けしています。会社が相談に応じてくれない、相談したら配置や評価で不利に扱われた、という場合には、都道府県労働局に紛争解決の援助を求めることができ(36条1項)、紛争調整委員会による調停を申請することもできます(37条1項)。援助を求めたことや調停を申請したことを理由とする不利益な取扱いも禁止されています(36条2項、37条2項)。

カスハラによる精神的な不調が業務によるものと認められれば、労災保険の対象になる場合があります。会社の対応に問題があったときに損害賠償を求められるかどうかは、会社がどのような措置を講じていたか、被害をどの時点で把握していたかによって変わります。職場のハラスメント全般の相談先についてはパワハラの相談先と解決方法のコラム、労働問題の全体像は労働問題で泣き寝入りしないための対処法もあわせてご覧ください。

当事務所でよくお引き受けするご相談事例

ここで紹介する四件は、これまでのご相談に共通して見られる経過を抜き出し、関係者が特定されないよう業種や数字を変えて一般化したものです。事情が似ていても、同じ結論になるとお約束するものではありません。

飲食店で同じ客が月に何度も来店して威圧する

堺市内で飲食店を3店舗営む会社からのご相談です。ある常連客が、料理の提供が遅いと大声で店員を責め、代金の割引を求める行為を約2か月で6回繰り返していました。客の言い分は「客に意見を言うのは当然だ」というものでした。

まず店長と本部で記録を整理し、日時と言動、居合わせた従業員の氏名を一覧にしました。そのうえで当事務所名の通知書を送り、今後同様の言動があれば来店をお断りすること、続く場合は法的措置を検討することを伝えました。通知の後、客からの来店はありませんでした。私が感じたのは、記録が日付つきで残っていたことが、通知書の内容に説得力を与えたという点です。

介護事業所で利用者の家族から長時間の電話が続く

訪問介護事業所を運営する法人からのご相談です。利用者の家族が、ヘルパーの対応への不満を理由に、事業所へ1日に10回以上、1回あたり1時間を超える電話をかけてくるようになり、担当ヘルパー2名が休職しました。家族は、サービスの質を問うのは家族の権利だと主張していました。

介護サービスは利用者の生活に直結するため、いきなり提供を止めることはできません。そこで、苦情の窓口を管理者一人に一本化し、通話は30分を上限とし録音すること、要望は書面で受け付けることを家族に書面で通知しました。あわせて、担当ヘルパーを交代し、休職した2名には産業医面談を設定しました。約1か月で電話の回数は週1回程度に落ち着き、サービスも継続できています。サービスを止められない業種では、窓口と時間を区切ることが抑止策の中心になると考えています。

取引先の担当者が自社の営業社員を怒鳴りつける

製造業の会社からのご相談で、取引先の購買担当者が、納期の遅れを理由に自社の営業社員を電話で長時間罵倒し、「次に遅れたら取引を切る」と繰り返していました。相手方は、取引上の注意をしただけだという立場でした。

取引関係を壊さずに止めるため、まず自社の営業部長から先方の上長あてに、事実関係と社員の状況を伝え、事実の確認と再発の防止への協力をお願いする書面を出すことを提案しました。書面の文案は当事務所で作成しました。先方の会社で担当者の変更が行われ、取引は継続しています。改正法の施行後は、相手方の会社にも、協力の求めに応じる努力義務(33条3項)や、自社の社員が他社の社員への言動に注意を払うよう配慮する努力義務(34条2項)があることを示せるようになり、こうしたお願いの根拠がはっきりしました。

社員から、会社が守ってくれなかったと責任を問われた

小売業の会社から、退職した元社員の代理人弁護士から損害賠償を求める通知が届いたというご相談です。元社員は、特定の客から繰り返し暴言を受けていたのに会社が対応せず、適応障害を発症したと主張していました。

会社には対応マニュアルがなく、店長の判断で元社員が一人で対応していた期間がありました。会社側の代理人として、当時の勤務記録や店長の報告を精査したうえで、会社の対応に不十分な点があったことを前提に、解決金を支払う内容で示談しました。この件の後、会社はマニュアルの作成と相談窓口の設置に取り組んでいます。紛争になってからでは選べる道が限られることを、改めて感じた事案でした。

よくある質問(FAQ)

カスハラ対策の義務化はいつからですか

2026年10月1日からです。規模や業種を問わず、全ての事業主が対象になっています。

従業員が数人の小さな会社も対象になりますか

対象になります。社員を雇っていれば、従業員数や資本金による例外はありません。方針の明確化と周知、相談体制の整備、起きた後の対応、悪質な言動への抑止策、プライバシー保護と不利益取扱いをしない旨の周知は、いずれも必要です。そのうえで、窓口を外部に委託する、手順を一枚の文書にまとめるなど、方法は会社の規模に合わせて工夫できます。

お客様の厳しい苦情は全てカスハラとして断ってよいのですか

断ってよいわけではありません。指針は、社会通念上許容される範囲で行われた苦情は正当な申入れであり、カスハラには当たらないとしています。商品の不具合や説明不足が原因の申入れには誠実に対応し、要求の内容や手段・態様が行き過ぎた段階からカスハラとして対処するという切り分けが求められます。

措置を講じていないと罰則がありますか

措置義務の違反そのものに罰金などの刑事罰はありません。ただし、厚生労働大臣による助言、指導、勧告の対象になり、勧告に従わなければ企業名が公表されることがあります。報告を求められて報告しなかったり虚偽の報告をしたりすると、20万円以下の過料の対象になります。

悪質な客に弁護士から警告してもらうことはできますか

できます。当事務所では、事実関係と記録を確認したうえで、弁護士名での警告書の作成と送付、出入禁止の通知、面談強要や架電を禁止する仮処分の申立て、損害賠償の請求までお手伝いしています。業種によってはサービス提供を止められない場合もあるため、どこまでの措置をとれるかを先に検討します。

カスハラ対策の整備から悪質な客への対応まで、堺東の事務所がお手伝いします

2026年10月1日を境に、カスハラへの備えは会社の努力ではなく法律上の義務になりました。求められているのは、方針と対応手順を決めて社員に伝え、相談を受け止める窓口を置き、起きたときに事実を確かめて社員を守り、悪質な相手には段階を踏んで毅然と対処することです。

当事務所は、堺東駅から徒歩5分の場所で、会社側と社員側の双方から労働問題のご相談をお受けしてきました。カスハラについては、対応マニュアルと就業規則の点検、相談窓口の設計、弁護士名での警告書や出入禁止の通知、仮処分の申立て、元社員からの損害賠償請求への対応まで、段階に応じて関わることができます。顧問契約をご利用いただければ、現場で起きたその日のうちに電話でご相談いただくこともできます。

どこから手を付ければよいか分からない、すでに困っている客がいる、という段階でも構いません。お電話は072-248-4848、ご予約はお問い合わせフォームから承ります。労働分野の取扱いは労働問題のページ、初回のご相談料(30分5,500円)を含む費用の目安は、費用のご案内に掲載しています。

弁護士監修:田渕総合法律事務所

この記事の監修者

田渕 大介弁護士 (大阪弁護士会所属)

TABUCHI DAISUKE

◆ 略歴
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2004年 防衛大学校 中退
2009年 大阪市立大学法学部 卒業
2014年 司法試験予備試験合格
2016年 大阪弁護士会登録(69期)

<所属>
大阪市立大学(現在の大阪公立大学)法学部 非常勤講師
大阪市立大学ロースクール アカデミックアドバイザー
大阪市立大学 有恒法曹会
大阪弁護士会 行政問題委員会、行政連携センター

<資格>
弁護士
行政書士
教員免許(中学社会・高校地歴公民)

<著書>
「生徒の自殺に関する学校側の安全配慮義務違反・調査報告義務を理由とする損害賠償請求事件」(判例地方自治469号掲載)
「行政財産(植木団地)明渡請求控訴事件」(判例地方自治456号掲載)

<学会発表>
「改正地域公共交通活性化再生法についての一考察-地域公共交通網形成計画に着目して-」(公益事業学会第67回大会)

◆ ホームページ
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【ココナラ法律相談】
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