【離婚】専業主婦は夫の年金を受け取れる?分割の条件や手続きの流れ
協議離婚裁判離婚調停離婚財産分与退職金と年金分割離婚までの流れ長年専業主婦として家庭を支えてきた女性にとって、離婚後の生活設計は切実な問題です。その中でも、老後の生活を支える年金について、「離婚したら夫の年金を受け取れるのか」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
日本では、離婚時に年金を分割する制度があり、一定の条件を満たせば、専業主婦の方も将来受け取る年金額を増やすことが可能です。
この記事では、離婚を検討している専業主婦の方に向けて、年金分割の仕組みや条件、手続きの流れを紹介します。また、記事の後半では、離婚で請求できるお金や助成金についても触れているため、経済面で不安を抱えている方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
離婚によって専業主婦は年金を受け取れる?
専業主婦が離婚後に年金を受け取る方法として「年金分割」という制度があります。これは、婚姻期間中に支払った保険料を分割できる制度です。例えば、婚姻期間中に夫が納めた厚生年金(共済年金を含む)の保険料の一部を妻が受け取れます。
注意したいのは、厚生年金を対象にした制度である点です。年金制度は、以下の表のように3階建ての仕組みになっています。
階層 | 名称 | 内容 | 対象者 |
1階 | 国民年金(基礎年金) | すべての日本国民に定額の年金が支給される。 | 自営業者、学生、主婦、無職などすべての人 |
2階 | 厚生年金(共済年金) | 会社員や公務員などが加入する年金。給与に応じた額が支給される。 | 会社員、公務員、厚生年金加入者 |
3階 | 企業年金・個人年金 | 企業が提供する年金制度や、個人が加入する年金。職業や加入内容によって異なり、任意加入。 | 企業年金を導入している企業の社員や個人加入者 |
上記のうち、年金分割が可能なのは「2階部分」です。以下で、具体的に解説します。
夫が学生・自営業・フリーランスの場合
国民年金には、基本的に3つの被保険者区分があり、第1号被保険者は自営業者や学生、フリーランスなどが該当します。婚姻期間中、夫が第1号被保険者であった場合は、離婚後に年金分割できません。
夫が会社員・公務員の場合
会社員や公務員は第2号被保険者に分類されます。第2号被保険者は、国民年金に加えて厚生年金にも加入しており、給与や賞与に応じて保険料を納めています。この厚生年金部分が、離婚時の「年金分割」の対象です。
具体的には、夫の厚生年金保険料のうち、婚姻期間中に納められた分が分割されます。なお、夫が会社員・公務員の場合でも、国民年金は分割の対象にはなりません。
なお、離婚時に配偶者の退職金が財産分与の対象になるかについては、以下の記事も参考になさってください。
参考記事:離婚の財産分与に退職金は含まれる?計算方法や請求の流れを解説
年金分割の金額はどのようにして決まる?
年金分割の金額は、「婚姻期間の長さ」「厚生年金保険料の納付記録」「分割の割合」の3つの要素によって決まります。この分割割合は、夫婦間の合意によるか、合意ができない場合には家庭裁判所で決められます。ただし、いずれの場合でも、割合の上限は最大2分の1です。
例えば、夫が婚姻期間中に納めた厚生年金に基づいて年間77万円を受け取る場合、分割割合が2分の1であれば、妻が受け取れるのは年額約38万円、月額では3万円強に相当します。
年金分割の方法は2種類
年金分割の方法には、「合意分割制度」と「3号分割制度」の2種類あります。ここでは、それぞれの方法について解説します。
合意分割制度
合意分割制度とは、夫婦が合意して年金を分割する制度です。年金をどの割合で分割するかを夫婦間の話し合いによって決定しますが、合意が得られない場合は家庭裁判所の調停や審判によって分割割合が決められます。
いずれの場合でも分割割合の上限は2分の1です。なお、合意分割制度を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 2007年4月1日以降に離婚したこと
- 婚姻期間中に厚生年金(または共済年金)の保険料納付記録があること
- 夫婦間の合意、または裁判所による分割割合の決定があること
- 請求期限を過ぎていないこと(原則として、離婚した日の翌日から2年以内)
3号分割制度
3号分割制度は、国民年金第3号被保険者である専業主婦(または主夫)が、年金分割を請求する制度です。合意分割制度とは違い、元配偶者の同意が不要で、第3号被保険者本人が単独で請求できます。分割割合は2分の1で、話し合いや裁判手続きは必要ありません。3号分割制度を利用する条件は以下の通りです。
- 2008年5月1日以降に離婚したこと
- 2008年4月1日以降の婚姻期間中に、第3号被保険者であったこと
- 元配偶者が婚姻期間中に厚生年金(または共済年金)に加入していたこと
- 離婚後2年以内に請求すること
離婚による年金分割の注意点
老後を安心して暮らすためにも、以下で紹介する注意点を把握しておきましょう。
元夫の年金が半分もらえるわけではない
年金分割の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦が共同で築いた厚生年金または共済年金の納付記録です。つまり、婚姻前の期間や離婚後の期間の納付記録は分割の対象外になります。さらに、国民年金はすべての国民が加入する共通の年金であるため、分割の対象にはなりません。
年金分割の請求には期限がある(離婚後2年)
年金分割の請求には期限があります。以下のいずれかの事由が生じてから、原則として2年以内に請求する必要があります。
・離婚をしたとき
・婚姻を取り消したとき
・事実婚関係にある人が国民年金第3号被保険者ではなくなり、事実婚関係が解消したと認められるとき
例外として、請求期限が過ぎても請求できるケースや、請求期限が早まるケースがあります。
【請求期限が過ぎても請求できるケース】
離婚から2年を経過するまでに家庭裁判所に審判の申し立てをしており、本来の請求期限が経過した後、または本来の請求期限経過日前の6ヶ月以内に審判が確定した場合は、その審判確定日の翌日から起算して6ヶ月以内であれば分割請求が可能です。
【請求期限が早まるケース】
離婚後に元配偶者が亡くなった場合は、死亡日から起算して1ヶ月を経過すると年金分割を請求できなくなります。
遺族年金は受け取れない
遺族年金とは、遺族に支給される年金のことです。亡くなった方と生計を同一にしていた配偶者や子などが受給対象です。しかし、離婚が成立すると、法律上、夫婦の関係は解消され、遺族年金は受け取れなくなります。
年金分割手続きの流れ
年金分割には請求期限があるため、手続きの流れを把握してスムーズに進めましょう。ここでは、年金分割手続きの流れを紹介します。
情報提供請求書を提出
合意分割を選択する場合、年金分割の話し合いを進めるためには「情報通知書」という書類が必要です。情報通知書には、分割の対象となる期間や標準報酬額など、分割割合の算定に必要な情報が記載されています。
情報通知書を受け取るには、「年金分割のための情報提供請求書」や基礎年金番号を確認できる書類(年金手帳など)、婚姻期間を証明する書類(戸籍謄本など)を年金事務所に提出する必要があります。
情報通知書の請求は、離婚前でも離婚後でも、夫婦どちらか一方からでも可能です。
話し合いで年金分割の按分割合を決める
合意分割を選択する場合は、夫婦間で婚姻期間中の厚生年金保険料の納付記録をどの割合で分割するかを話し合って決めます。この按分割合は、最大で2分の1までです。夫婦間での話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立て、裁判所が分割割合を決めます。
必要書類をそろえて年金事務所で手続きする
必要な書類をそろえて年金事務所に提出し、年金分割を完了させます。必要書類は以下のとおりです。
【合意分割請求時】
・標準報酬改定請求書
・年金分割の合意書(公証役場で認証を受けたもの、または家庭裁判所の調停で作成されたもの)
・請求者本人の基礎年金番号を確認できる書類(年金手帳、基礎年金番号通知書など)またはマイナンバーカード
・請求者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
・戸籍謄本(請求日前1ヶ月以内に交付されたもの)※代理人が提出する場合は「代理人の本人確認書類」「委任状」も必要
【3号分割請求時】
・標準報酬改定請求書
・請求者本人の基礎年金番号を確認できる書類(年金手帳、基礎年金番号通知書など)またはマイナンバーカード
・請求者の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
・戸籍謄本(請求日前1カ月以内に交付されたもので、相手方の情報も記載されているもの)※代理人が提出する場合は「代理人の本人確認書類」「委任状」も必要
離婚後の生活が不安な方へ|請求できるお金や助成金について知っておこう
離婚後の生活は、経済的な不安を抱えやすいものです。特に、これまで専業主婦として家事や育児に専念してきた方にとっては、離婚後の収入源の確保は大きな課題となります。ここでは、離婚後の生活が不安な方に向けて、請求できる可能性のあるお金や助成金について解説します。
婚姻費用
離婚が成立するまでの間、別居期間中も含めて、配偶者に対して「婚姻費用」を請求できる可能性があります。
婚姻費用には、食費、住居費、医療費、子どもの養育費など、夫婦が共同生活を送る上で必要な費用全般が含まれます。具体的にいくら請求できるかは、夫婦それぞれの収入や資産、子どもの人数や年齢などによって異なるため、家庭裁判所の算定表などを参考に算出するのが一般的です。
この婚姻費用は、離婚が成立するまでの間の生活費であり、離婚が成立した後は請求できなくなります。もし、別居中で生活費に困っている場合は、早めに弁護士などに相談し、婚姻費用の分担請求の手続きを進めましょう。請求が遅れると、過去の分をさかのぼって請求することが難しくなる場合もあります。
なお、婚姻費用の額がどのくらいになるかについては、以下のリンク・記事を参考になさってください。
参考リンク:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(裁判所)
参考記事:別居中の婚姻費用
財産分与
財産分与は、婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産を、離婚時に分け合う制度です。専業主婦の場合、直接収入を得ていなくても、家事や育児を通して家庭を支え、夫婦の財産形成に貢献しているとみなされます。
財産分与の請求対象となるのは、婚姻期間中に購入した家やマンション、預貯金、株式、保険などです。名義が夫になっていても、夫婦の協力で得た財産であれば、分与の対象となります。一方で、結婚前からそれぞれが持っていた財産や、婚姻期間中に個別に相続した財産などは、分与の対象外です。
なお、財産分与の計算方法やそのポイントに関しては、以下の記事を参考になさってください。
参考記事:離婚の財産分与の計算方法とポイント
慰謝料
離婚の原因によっては慰謝料を請求できます。慰謝料とは、相手の不法行為によって受けた精神的な苦痛に対する損害賠償のことです。具体的には、配偶者の不貞行為(不倫)、DV(家庭内暴力)、モラハラ(精神的虐待)、悪意の遺棄(生活費を渡さないなど)といった行為が原因で離婚に至った場合に、慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料の金額は個々のケースによって異なり、一概にはいえませんが、一般的な目安は数十万円から数百万円程度です。
なお、離婚の慰謝料に関しては、以下の記事を参考になさってください。
参考記事:不倫相手に慰謝料を請求するには? 流れや相場を解説
参考記事:性格の不一致による離婚の慰謝料相場は?手続きの流れやポイント
助成金
国や自治体が提供している助成金を受け取れる可能性があります。具体的にどのような助成金や手当があるかは、住んでいる地域や個々の状況によって異なりますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。
児童扶養手当 | ひとり親家庭の児童(18歳に達する日以後の最初の3月31日まで、または一定の障害のある場合は20歳未満)を養育している場合に支給される手当です。所得制限があります。 |
児童育成手当 | 児童扶養手当と似ていますが、自治体によっては独自の児童育成手当を設けている場合があります。 |
ひとり親家庭等医療費助成 | ひとり親家庭の親と児童の医療費の一部を助成する制度です。自治体によって助成内容や対象となる医療費が異なります。 |
住宅手当 | 住宅に困窮している低所得者に対して、家賃の一部を補助する制度です。自治体によって制度の有無や内容が異なります。 |
生活保護 | 生活に困窮し、最低限度の生活を維持できない場合に、国が生活に必要な費用を支給する制度です。 |
ひとり親家庭等日常生活支援事業 | 一時的に家事や育児などの支援が必要なひとり親家庭に向け、ヘルパーの派遣などを提供している事業です。 |
保育料の減免 | ひとり親家庭や生活保護世帯など、経済的に困窮している世帯に対して、保育園や幼稚園などの保育料が減免される制度です。 |
どのような助成金が利用できるのか、お住まいの自治体の福祉課や児童相談所などで相談することで、ご自身が利用できる制度について詳しく教えてもらえます。また、弁護士や社会福祉士などの専門家に相談することも有効です。
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まとめ
年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が共同で築いた厚生年金(共済年金を含む)の保険料納付記録を分割する制度です。年金分割制度を利用することで、専業主婦の方も将来の年金受給額を増やせます。ただし、年金分割制度には条件や請求期限があるため注意しましょう。
◆ 略歴
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2004年 防衛大学校 中退
2009年 大阪市立大学法学部 卒業
2014年 司法試験予備試験合格
2016年 大阪弁護士会登録(69期)
<所属>
大阪市立大学(現在の大阪公立大学)法学部 非常勤講師
大阪市立大学ロースクール アカデミックアドバイザー
大阪市立大学 有恒法曹会
大阪弁護士会 行政問題委員会、行政連携センター
<資格>
弁護士
行政書士
教員免許(中学社会・高校地歴公民)
<著書>
「生徒の自殺に関する学校側の安全配慮義務違反・調査報告義務を理由とする損害賠償請求事件」(判例地方自治469号掲載)
「行政財産(植木団地)明渡請求控訴事件」(判例地方自治456号掲載)
<学会発表>
「改正地域公共交通活性化再生法についての一考察-地域公共交通網形成計画に着目して-」(公益事業学会第67回大会)
◆ ホームページ
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