ご相談者が所有していたのは、周囲を他人の土地に囲まれ、そのままでは公道に出られない約220平方メートルの畑です。北側にある約80平方メートルの隣地の一部を通って公道へ出るのが、代々使われてきた通り道でした。南側と東側は第三者の所有地で、東側は数メートル低くなっています。西側にはご相談者が所有する別の土地が隣り合っていますが、こちらも古くからある石垣で隔てられ、人が通れる状態ではありません。
ある年の12月、隣地の所有者が突然、隣地に植えられていた梅の木を伐採し、切った木を隣地の北側に積み上げて通行を妨げました。翌月には、隣地の北側と南側の境界線に高さ約1メートルの金網フェンスが設置され、通り道は完全に塞がれます。畑への出入りができなくなり、話合いの糸口も見えないまま、ご相談者は当事務所へお越しになりました。
ご相談内容と方針
ご相談者のご希望は、畑への通り道を元どおりに使えるようにすることでした。理論上は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道へ出るために周囲の土地を通行することができます(民法210条1項)。契約や登記がなくても法律上当然に認められる権利です。実務上は、そもそも公道に通じない土地といえるのかという入口の部分から争われることが少なくありません。通行の場所と方法は、通行する側にとって必要であり、かつ通られる側の損害が最も少ないものを選ばなければならないとされているため(同211条1項)、どこをどれだけの幅で通れるのかという線引きも争点になります。現地の高低差、従来の通路の形状、隣地の利用状況を資料でどこまで示せるかが結論を左右します。
登記事項と公図、旧土地台帳や閉鎖登記簿、現況の測量、フェンス設置後の現況写真を整えたうえで、地方裁判所へ、通行権の確認と金網フェンスの撤去、通行の妨げになる工作物を設置しないことを求める訴えを提起する方針を立てました。フェンスの撤去については仮執行の宣言も求めています。
相手方は、ご相談者の土地は別の方向から出入りできるので袋地にはあたらないと主張しました。当事務所は、旧土地台帳と閉鎖登記簿、明治期に作られた絵図、現地の写真を提出し、少なくとも70年以上にわたって同じ場所を通ってきたこと、他の方向からは出入りできないことを具体的に示しています。
審理の中で相手方からは、通路として求められている幅約1.6メートルの部分を明け渡すと、その部分の利用価値がなくなるという主張が出されます。そのうえで、通路を提供する見返りにご相談者の土地の一部を分けて交換してほしい、地域の慣習では交換の比率は1対3が妥当だから約30平方メートルを提供してほしい、という提案がありました。
この提案については、裁判所からも、相手方の要求が過大で和解案として妥当とは言い難いという指摘が出ています。交渉の焦点は、交換をするかどうかではなく、交換する土地の位置と面積へ移りました。当事務所は、現地に立ち会って測量の基準点を順に確認し、実際に使える土地とそうでない部分を区別したうえで、交換の対象を通路として必要な範囲に限るよう求めています。相手方が和解の協議中にご相談者の所有部分へ無断で石垣を積んだ際には、その撤去も併せて求めました。
和解の条項をまとめる段階では、測量の基準点の特定、土地を交換する時期、フェンスと石垣を撤去する時期と費用の負担、排水設備を設ける位置、石垣を取り除いた後に法面が崩れないようにする措置まで、後日の紛争の種になりそうな事項を条項へ落とし込んでいます。
解決の結果
訴えの提起からおよそ1年4か月後に、訴訟上の和解が成立しました。ご相談者の土地から切り出して交換することになった面積は約17.6平方メートルで、相手方が当初求めていた約30平方メートルを下回っています。交換によって通り道として使う部分が確保され、通行を妨げていた金網フェンスと、協議中に積まれた石垣は、和解条項に基づいて撤去することとされました。石垣については、和解が成立した年の10月末までに撤去が完了しています。
理論上は、公道に通じない土地の所有者は法律上当然に通行権を持ち、通行を妨げる工作物の撤去も請求できます。他方で、他人の土地を通ることになる以上、通行する土地に生じた損害に対して償金を支払う義務も定められています(民法212条)。実務上は、判決で通路の位置と幅を確定してもらうより、和解で土地の交換や設備の設置、撤去の費用負担まで一体として取り決めたほうが、その後の近隣関係が落ち着くことが多いといえます。判決は請求した範囲についてしか判断しませんが、和解であれば、排水や法面の管理のように通行権そのものではない事項も同じ書面へ入れられるためです。
隣地との間で通行や境界が問題になったときは、状況が変わる前の記録を残しておくことが大切です。塞がれる前の通路の写真、公図と登記事項証明書、旧土地台帳や閉鎖登記簿、地域に残る古い図面は、いずれも後から集め直すことが難しくなります。2023年4月に施行された改正民法では、境界標の調査や境界に関する測量のために隣地を使用できることが条文で整理され(民法209条1項)、電気やガス、水道などの継続的な給付を受けるための設備を他人の土地に設ける手順も定められました(同213条の2)。工事や設置に踏み切る前に通知の要否と方法を確認しておくと、紛争そのものを避けられる場合があります。
弁護士からのご案内
土地の通行や境界、隣地とのトラブルに関するご相談は、初回30分5,500円(税込)でお受けしています。フェンスや塀を設置された、通路の使用を断られた、境界の位置で話合いがつかないという段階でも、写真と図面を拝見しながら、取りうる手続と見通しをお伝えします。お電話(072-248-4848)またはお問い合わせフォームからご予約ください。取扱い分野は個人のご相談、ご依頼にかかる費用は費用のご案内にまとめています。建物の賃貸借に関する事例は立退料を獲得した解決事例もご覧ください。
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