離婚後に財産分与は請求できる?認められるケースや手続きの流れ
財産分与離婚後のトラブル離婚が成立した後になって、「分け忘れていた財産があった」「元配偶者が財産を隠していたことを知った」と気づくケースは少なくありません。離婚時に財産分与をきちんと取り決めていなかった場合でも、一定の条件を満たせば、離婚後に財産分与を請求することは可能です。
ただし、法的手続きによる請求には時効(原則2年)があるほか、注意したい点もいくつかあります。
この記事では、離婚後に財産分与請求が可能なケースや請求期限、手続きの流れについて解説します。後から気づいた財産をきちんと分けたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
離婚後に財産分与を請求できる?
離婚が成立した後でも、財産分与を請求することは可能です。ただし、法的手続きによる請求には期限が設けられているため、早めに行動する必要があります。ここでは、財産分与の期限について解説します。
離婚後も請求可能!ただし調停・審判の期限は2年(改正後は5年)
財産分与について、離婚時に話し合いがまとまらなかった場合や、後になって相手の財産の全容が分かった場合などに、あらためて請求可能です。ただし、法的手続きには請求期限があり、現在(2025年10月の執筆時点)では、離婚成立から2年以内に家庭裁判所へ調停または審判を申し立てる必要があります。
・調停とは:家庭裁判所の調停委員を介して夫婦間で話し合う手続きのこと
・審判とは:調停で合意に至らなかった場合に、裁判官が分与の額や方法を決定する手続きのこと
なお、この請求期限は「時効」ではなく「除斥期間(じょせききかん)」であり、時効のように期限を「止める・更新する」といったことはできず、期限を過ぎてしまうと申し立てる権利が自動で消滅します。そのため、財産分与の請求は早めに進めましょう。
また、2024年5月に成立した民法改正により、今後はこの期間が「5年」に延長される予定です(2026年5月24日までに施行予定)。
参考:民法768条2項(e-Gov 法令検索)
財産分与の調停・審判中に2年が経過した場合
離婚後2年以内に調停または審判を申し立てていれば、手続き中に2年を過ぎても財産分与は受けられます。ただし、手続きを途中で取り下げた場合、再び「離婚成立から2年以内」の期限が適用され、過ぎている場合は財産分与請求権が消滅します。
なお、財産分与に関する詳しい解説は、次の記事を参考になさってください。
関連記事:財産分与
(3)財産分与の取り決めがすでに済んでいる場合は「10年」
離婚後2年以内に財産分与の取り決めを済ませたものの相手が任意に支払わない場合、債権の消滅時効として10年間は請求できます。ただし、この10年は「支払いを求める権利の有効期限」であり、「分与を申し立てる期限」ではない点に注意が必要です。
参考:民法166条(e-Gov 法令検索)
離婚後2年以上経過していても財産分与請求ができるケース
原則として、財産分与の請求は離婚成立から2年以内ですが、例外的に2年以上経過していても請求が可能なケースがあります。ここでは、その4つのパターンを紹介します。
元配偶者が話し合いに応じてくれた
当事者同士の話し合い(協議)による財産分与には期限がありません。つまり、元配偶者が任意に協議に応じ、分与内容について合意できれば、離婚から何年経っていても財産分与が可能です。
ただし、口約束だけでは後々トラブルになるリスクがあるため、書面(合意書や公正証書)を残しておくことが重要です。また、合意が成立したとしても、支払いが遅れる・履行されないといった場合に備えて、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくと安心です。万が一、相手が支払わない場合、裁判を起こさずに強制執行(差押え)が可能になります。
「後に分与する」と取り決めていた
離婚時に「今は分けられないけれど、後で財産分与を行う」と取り決めていた場合は、たとえ2年以上経過していても請求が可能です。ただし、このような「後日分与する合意」を証明するためには、当時の取り決めを示す書面やメール、LINEのやり取りなどの証拠が必要になります。
口頭のみの約束で証拠がない場合は、相手が「そんな約束はしていない」と主張し、請求が認められなくなることもあります。
元配偶者が財産を隠していた
本来分けるべき財産を意図的に申告しなかった場合、それは「不当な隠匿行為」にあたるため、後から損害賠償を請求できるケースがあります。このような場合は、財産分与というよりも「損害賠償請求」として別途訴訟を提起する形になりますが、実質的には隠された財産の一部を取り戻すことが可能です。
なお、財産隠しを立証するためには、預金履歴、不動産登記簿、証券口座などの客観的な証拠が欠かせません。
元配偶者による暴力や脅迫で財産分与ができなかった
DVや脅迫、強い精神的圧力などによって、財産分与の協議が正常に行えなかった場合も、例外的に請求できる可能性があります。このようなケースでは、離婚時に行われた合意そのものが「有効な意思表示」にあたらないとして、民法95条の「錯誤」または民法96条の「詐欺・強迫」に基づき取り消しを主張できます。
ただし、暴力や脅迫の存在を証明するためには、診断書や警察への相談履歴、LINEなどの証拠を揃えることが重要です。被害を受けた状況によっては、財産分与のほかにも慰謝料請求が認められることがあるため、弁護士に早めに相談しましょう。
参考:民法(e-Gov 法令検索)
財産分与の対象となるものを整理しておこう
財産分与の請求をする前に、あらためて「財産分与」とは何か、対象となる財産とは何かを確認しておきましょう。財産分与とは、夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に公平に分ける制度のことです。
以下で、財産分与の対象となる財産(共有財産)と、対象とならない財産(特有財産)について解説します。
財産分与の対象となるもの
財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して築いた「共有財産」です。名義がどちらか一方にあっても、実質的に夫婦の共同生活から生じた財産であれば、原則として分与の対象になります。代表的なものを挙げると、以下のとおりです。
| 財産の種類 | 具体例 |
| 不動産 | 自宅・土地・マンションなど |
| 現金・預貯金 | 給与の貯金・共有名義の口座など |
| 有価証券 | 株式・投資信託・社債など |
| 生命保険 | 解約返戻金のある保険契約(貯蓄型保険など) |
| 退職金 | 離婚時点で勤務期間に応じて発生している見込み分(将来支給予定分も含まれることあり) |
| 車・貴金属 | 自家用車・宝石・ブランド品など、生活の中で取得した高額な資産 |
| 家具・家電 | 結婚後に購入した家具・家電など |
なお、退職金を財産分与として請求することに関する詳細は、以下の記事を参考になさってください。
関連記事:離婚の財産分与に退職金は含まれる?計算方法や請求の流れを解説
財産分与の対象とならないもの
婚姻前から保有していた財産や、夫婦のどちらか個人に属する財産を「特有財産」と呼び、原則として財産分与の対象にはなりません。以下は、財産分与の対象とならないものです。
| 区分 | 具体例 |
| 結婚前からの個人財産 | 結婚前に貯めた預金・結婚前に所有していた不動産・車・株式など |
| 相続・贈与による財産 | 親からの相続財産・個人的な贈与(名義が夫婦共有でないもの) |
| 個人の慰謝料や損害賠償金 | 交通事故の慰謝料や労災補償など、個人に帰属する損害賠償金 |
| 個人の借金・ローン | 個人の趣味・ギャンブル・浪費などによる借金(共有生活と無関係なもの) |
離婚後の財産分与請求はどう進める?手続きの手順
財産分与請求の手続きは、一般的に元配偶者との「協議」から始まり、話がまとまらない場合には「調停」へと進みます。ここでは、手続きの手順や必要書類について解説します。
まずは元配偶者と話し合う
離婚後の財産分与は、できる限り「元配偶者との話し合い」で解決を目指すのが望ましい方法です。話し合いであれば、裁判所を通すよりも時間や費用の負担を軽くでき、柔軟な取り決めが可能になります。また、離婚から2年の期限が過ぎてしまっている場合でも、当事者同士の話し合いによる合意(協議)であれば有効です。
話し合う際は、感情的な対立を避けるためにも、財産の一覧表を作って客観的に整理するとよいでしょう。預金残高、不動産の評価額、車や保険などの資産を明確にし、「どの財産をどのように分けるか」を具体的に話し合います。合意がまとまった場合は、口約束で終わらせず、書面に残しておきましょう。
話し合いが難しい場合は調停を申し立てる
「相手が話し合いに応じてくれない」「連絡が取れない」「協議が決裂してしまった」といった場合は、家庭裁判所へ「財産分与請求調停」を申し立てます。調停では、裁判官と調停委員が双方の主張を聞きながら、合意に向けた話し合いを仲介してくれます。調停の申し立てには、次のような費用と書類が必要です。
【費用】
・収入印紙:1,200円分
・連絡用の郵便切手(※金額は裁判所によって異なるが、1,000~2,000円程度が一般的)
【必要書類】
| 1.申立書およびその写し1通 | 裁判所の公式サイトまたは窓口で入手可能(記入例も掲載あり) |
| 2.標準的な添付書類 | 離婚時の夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)※離婚により夫婦の一方が除籍された記載のあるもの |
| 夫婦の財産に関する資料(例:不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、残高証明書など) | |
| 事情説明書(財産分与) | |
| 進行に関する照会回答書 | |
| 3.その他必要書類 | 送達場所等届出書 |
上記以外にも、審理のために追加で資料提出を求められることもあります。
調停では、原則として1ヶ月〜1ヶ月半に1回程度のペースで期日が設けられ、お互いの主張や提出資料をもとに話し合いが進みます。調停が成立すれば、その内容が調書に記載され、法的な効力(判決と同じ効力)を持ちます。相手が履行しない場合には、強制執行も可能です。
一方、調停が不成立になった場合は、家庭裁判所が職権で判断する「審判」に移行します。審判では、提出された証拠や主張内容をもとに裁判官が分与内容を決定し、その判断に従うことになります。
調停・審判での財産分与に関する詳細な解説は、次の記事を参考になさってください。
関連記事:離婚の財産分与の計算方法とポイント
離婚後の財産分与請求が難しい理由
離婚後の財産分与請求には、法律的な知識や証拠の収集、書類の作成など、多くの専門的要素が関わります。また、精神的にも負担が大きく、思うように手続きが進まないケースも少なくありません。ここでは、財産分与を自力で進めるのが難しい理由について解説します。
財産の評価や分与割合についての知識が必要
財産分与では、共有財産を正確に洗い出し、評価する必要があります。不動産や自動車、株式、退職金、生命保険など、種類によって評価方法が異なり、専門的な知識が不可欠です。また、財産分与の割合は「原則2分の1」とされるものの、実際には婚姻期間や寄与度、財産の性質によって変わることもあります。
さらに、どの時点を基準に財産を評価するのか(基準時)や、離婚後に増減した財産の扱いなども判断が難しいポイントです。こうした点を正しく理解しないまま話し合いを進めると、不利な条件で合意してしまうおそれがあります。
財産を隠されていた場合は証拠が必要
元配偶者が預貯金や投資口座などの財産を隠している場合、それを立証するためには客観的な証拠が必要です。例えば、通帳のコピー、給与明細、確定申告書、不動産の登記事項証明書などが有効な証拠になります。
しかし、離婚後は相手の生活実態や資産状況を把握しにくく、証拠収集が困難になります。銀行や証券会社に照会をかけるにも法的手続きが必要であり、個人の力では限界があるケースも多いでしょう。そのため、「財産を隠されているかもしれない」と感じたときは、弁護士に相談し、法的手段を通じて情報開示を求めることが重要です。
元配偶者と接触する必要がある
家庭裁判所の調停手続きを利用すれば、調停委員を介してやり取りができ、直接顔を合わせずに話を進めることも可能です。しかし、離婚から2年が過ぎてしまっている場合は、財産分与を進めるのに元配偶者との話し合いが必要です。
離婚の原因や経緯によっては、直接の連絡や面会が大きなストレスとなることもあるでしょう。特に、DVやモラハラ、浮気などが関係していた場合は、精神的に負担が大きく、冷静に交渉を進めるのが難しくなります。
書類の作成や法的手続きが煩雑
財産分与請求調停を申し立てる場合、申立書の作成や必要書類の準備など、手続きが煩雑です。添付書類には戸籍謄本や財産資料、評価証明書など多くの書類が必要で、書き方を誤ると差し戻しになることもあります。
また、調停や裁判では、主張や証拠を整理して提出する必要があり、法的な書面の作成経験がない人にとっては大きな負担に感じることもあるでしょう。
なお、財産分与と税金に関することについては、以下の記事を参考になさってください。
関連記事:離婚時の財産分与に税金がかかる3つのケース|節税の方法とは?
離婚後の財産分与請求は「田渕総合法律事務所」へご相談ください
離婚後の財産分与請求には期限がある上に、元配偶者との交渉が必要なことや財産の評価が難しいことなどから、弁護士に相談したほうが賢明です。「田渕総合法律事務所」では、財産分与の交渉から調停の手続きに至るまで一貫してサポートいたします。
当事務所では離婚に関するお悩みをお持ちの方が気軽に弁護士に相談できるよう、初回の相談は30分無料で承っております。事務所は堺東駅から徒歩5分の場所に位置しており、オンラインでのご相談も可能です。
また、事前にご予約いただければ、土日祝日のご相談にも対応しています。お気軽にお問い合わせください。
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離婚後の財産分与請求に関するよくある質問
離婚後の財産分与について、まだ疑問や不安のある方もいるのではないでしょうか。ここでは、よく寄せられるご質問をいくつか取り上げ、弁護士の視点から解説します。
元配偶者の所有している財産を知りたいときは?
離婚が成立している場合、元配偶者が自発的に財産情報を開示しない限り、ご自身だけで相手名義の財産すべてを把握するのは困難です。この場合、弁護士に依頼することで「弁護士会照会制度」を利用した財産調査が可能です。
弁護士会照会制度は、弁護士が依頼を受けた事件の処理に必要な情報や証拠を収集するため、銀行や証券会社、役所などの団体・機関に対して、元配偶者の口座の有無や残高、不動産の保有状況などについて照会を行うものです。
ただし、回答が得られないケースもあるため、次の項目で解説する、調停を申し立てた上での「調査嘱託」や「文書送付嘱託」を行う方法が有効です。
元配偶者が財産を開示してくれないがどうすればいい?
元配偶者が「財産の情報開示に非協力的である」または「意図的に隠している可能性がある」といった場合、話し合いや弁護士照会だけでは解決に至りません。
このような場合、家庭裁判所に財産分与請求調停や審判を申し立てましょう。裁判所の手続きを利用することで、調査嘱託や文書送付嘱託、文書提出命令といった、より強力な調査手段を活用できる場合があります。
・調査嘱託:裁判所から銀行や役所などの第三者に対し、財産状況に関する情報の報告を求める手続き。弁護士照会とは異なり、裁判所が主体となるため、回答を得られる可能性が高まる
・文書送付嘱託:裁判所から第三者に対し、特定の文書(残高証明書や保険の契約内容など)を裁判所に送付するよう依頼する手続き
・文書提出命令:元配偶者が財産に関する書類(源泉徴収票、通帳など)を持っているにもかかわらず提出しない場合、裁判所がその文書の提出を命じる手続き
元配偶者が財産を処理してしまったときは?
離婚後の財産分与請求前に、元配偶者が預金を引き出したり、不動産を売却してしまったりするケースもあります。こうした場合、現物はすでに存在しないため、その財産に相当する金額(代償金)を支払うことで調整するのが一般的です。
例えば、元配偶者が無断で売却した車の価値が200万円だった場合、その半分である100万円を代償金として請求できます。
財産隠しは罪に問える?
財産隠しは、刑法上の犯罪としては扱われません。なぜなら、親族間での窃盗や横領などの罪は、原則として刑を免除する特例(親族相盗例)があるためです。しかし、民法上は不法行為に該当する可能性があり、隠されたことで損害を受けた側は、損害賠償請求が可能です。
損害賠償請求で注意したいのは、元配偶者が財産を隠していたことを知った時点から3年以内に請求しなければならない点です。たとえ3年以内に気づかなかったとしても、財産隠しが行われた時点から20年を過ぎると、完全に時効になります。
まとめ
離婚後に財産分与を請求することは可能です。ただし、家庭裁判所へ財産分与の調停・審判を申し立てる期限は、離婚成立から2年以内(法改正後は5年以内)である点に注意しましょう。期限を過ぎてしまった場合は、協議による請求しか手はありません。
元配偶者との話し合いに不安がある場合や、きちんと財産を評価して適切に分けたい場合は、弁護士への相談をご検討ください。
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◆ 略歴
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2004年 防衛大学校 中退
2009年 大阪市立大学法学部 卒業
2014年 司法試験予備試験合格
2016年 大阪弁護士会登録(69期)
<所属>
大阪市立大学(現在の大阪公立大学)法学部 非常勤講師
大阪市立大学ロースクール アカデミックアドバイザー
大阪市立大学 有恒法曹会
大阪弁護士会 行政問題委員会、行政連携センター
<資格>
弁護士
行政書士
教員免許(中学社会・高校地歴公民)
<著書>
「生徒の自殺に関する学校側の安全配慮義務違反・調査報告義務を理由とする損害賠償請求事件」(判例地方自治469号掲載)
「行政財産(植木団地)明渡請求控訴事件」(判例地方自治456号掲載)
<学会発表>
「改正地域公共交通活性化再生法についての一考察-地域公共交通網形成計画に着目して-」(公益事業学会第67回大会)
◆ ホームページ
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