【堺 弁護士が解説】ネット誹謗中傷の加害者になってしまったら|発信者情報開示・損害賠償を最小限に抑える早期示談のすすめ |堺市の弁護士【田渕総合法律事務所】堺東駅5分

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【堺 弁護士が解説】ネット誹謗中傷の加害者になってしまったら|発信者情報開示・損害賠償を最小限に抑える早期示談のすすめ

目次

はじめに「軽い気持ちで書いた投稿」では済まされない時代に

「匿名だから大丈夫だろうと思い、SNSや口コミ掲示板に他人を批判する書き込みをしてしまった」。「身に覚えはないのに、自宅に突然プロバイダから『発信者情報開示に係る意見照会書』という封書が簡易書留で届いた」。「被害者を名乗る人物の代理人弁護士から、内容証明郵便で数十万円から数百万円の損害賠償を請求された」。堺東駅エリアの当事務所にも、このようなご相談が年々増えています。

ひと昔前であれば、匿名アカウントからの書き込みは発信者の特定が技術的・手続的に難しく、実際に責任を追及されるケースは限定的でした。しかし、2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法で「発信者情報開示命令」という新たな非訟手続が創設され、同年7月には侮辱罪の法定刑が引き上げられました。加えて、2025年4月1日には「情報流通プラットフォーム対処法」(通称・情プラ法)が施行されています。こうした一連の法改正によって、加害者の特定は従来よりも格段に早く、確実なものとなりました。

本稿では、堺市でネットトラブルの加害者側弁護を扱う弁護士の視点から、どのような書き込みが「加害」となるのか、加害者のもとにはどの段階で連絡が届くのか、意見照会書に対してどう答えるべきか、そして最も重要な「なぜ早期に弁護士へ依頼し、示談解決を目指すべきか」を、実務運用に即してお伝えしていきます。

すでに意見照会書や内容証明郵便を受け取った方、警察から呼び出しを受けた方、「自分の書き込みがまずかったかもしれない」「家族が自宅のWi-Fiを使って書き込んだのかもしれない」と不安を抱えている方に、少しでも参考となる内容になれば幸いです。

ネット上の書き込みが「加害」となる法的整理

そもそも、どのような書き込みが法的責任を問われるのかを整理しておきます。一般に「誹謗中傷」という言葉は日常的に使われますが、法律上は成立要件の異なる複数の罪・不法行為類型に分かれており、親告罪と非親告罪の区別を正確に理解することが、示談戦略の前提として重要になります。

名誉毀損罪・名誉毀損の不法行為(親告罪)

刑法230条1項は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」と定めています。ここでのポイントは、公然性(不特定多数の者が閲覧可能な状態)、事実の摘示(真偽を判定できる具体的な内容)、そして社会的評価を低下させるおそれの3点です。

SNSや匿名掲示板のような誰でも閲覧可能なプラットフォームへの投稿は、原則として「公然性」が認められます。たとえば「A社は取引先に対して不正な値引きを強要している」「Bさんは過去に横領をしたことがある」「Cクリニックでは無資格者が施術している」といった、真偽を検証できる具体的内容を摘示する投稿は、名誉毀損罪に該当する可能性があります。

注意していただきたいのは、名誉毀損は投稿内容が事実であっても、原則として成立するという点です。公共性・公益性・真実性の3要件をすべて満たせば違法性は阻却されますが、この立証は容易ではありません。「本当のことを書いただけ」という弁解は通用しないのが原則だとお考えください。

民事上も、同じ行為は民法709条の不法行為にあたり、加害者は慰謝料等の損害賠償責任を負うことになります。なお、名誉毀損罪は親告罪ですので、被害者の告訴がなければ検察は起訴できません。この点は示談戦略を組み立てるうえで大きな意味を持ちます。名誉毀損や誹謗中傷の具体的な成立要件、発信者情報開示の基準については、こちらのコラムでも解説しています。

侮辱罪(2022年7月から厳罰化・親告罪)

事実の摘示を伴わない悪口、たとえば「バカ」「アホ」「クズ」「無能」「ブス」「ブラック企業だ」といった抽象的な侮辱・価値判断は、刑法231条の侮辱罪に該当します。侮辱罪は2022年7月の刑法改正で法定刑が大幅に引き上げられ、「1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」となりました。公訴時効も1年から3年に延長されています。改正前は「拘留又は科料」(30日未満の身体拘束または1万円未満の罰金)のみだったことと比べると、刑罰の重みはまるで違うものになっています。

この厳罰化は、ネット上の誹謗中傷投稿による相次ぐ自殺事案を受けて行われた改正であり、検察も従前より積極的に起訴する姿勢を示しています。「たかが悪口」と軽く見ることはできない時代になっているとご理解ください。侮辱罪も親告罪ですので、示談成立による告訴取下げが刑事処分の帰趨を左右します。

信用毀損罪・業務妨害罪(非親告罪)

企業や飲食店、クリニックなどの事業者に対する虚偽の口コミ投稿は、刑法233条の信用毀損罪・業務妨害罪に該当する可能性があります。法定刑は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。「あの店は産地偽装をしている」「あのクリニックは無資格者が施術している」といった虚偽事実の流布は、名誉毀損に加えて信用毀損・業務妨害にもあたり、民事では逸失利益を含む多額の損害賠償請求を受けるリスクがあります。

ここで重要なのは、信用毀損罪・業務妨害罪は非親告罪だという点です。被害者の告訴がなくても検察の判断で起訴されますので、示談が成立しても自動的に不起訴になるわけではなく、示談の事実を情状として主張していく必要があります。

プライバシー侵害・肖像権侵害

他人の住所、勤務先、卒業校、家族構成などの個人情報や、本人の承諾なく撮影した写真・動画をネット上で公開する行為は、プライバシー権や肖像権を侵害する不法行為です。刑事罰が直接規定されていなくても、民事上は独立の慰謝料請求権が発生します。個人情報のネット上公開に関しては、こちらのコラムもあわせてご参照ください。

脅迫罪・ストーカー規制法違反(非親告罪)

「殺してやる」「会社に突撃する」「家族に危害を加える」といった害悪の告知は、DMや投稿形式を問わず脅迫罪にあたります。特定の個人に対して執拗なメッセージ送信や監視を行えば、ストーカー規制法違反に発展するケースもあります。これらはいずれも非親告罪であり、示談の有無にかかわらず捜査機関の判断で起訴される可能性があります。

加害者が負う責任の全体像

ネット書き込みの加害者が負う責任は、民事・刑事・社会的制裁という3つの層から成り立っています。

民事責任としては、被害者からの損害賠償請求が問題となります。典型的な請求項目は、精神的苦痛に対する慰謝料、発信者情報開示請求に要した弁護士費用(いわゆる「調査費用」)、そして事案によっては逸失利益や信用回復のための広告費用です。後述するように、調査費用は投稿との因果関係が認められやすく、慰謝料本体を上回る金額になることも珍しくありません。

刑事責任については、名誉毀損罪・侮辱罪・信用毀損罪・業務妨害罪・脅迫罪などに該当する場合、警察の捜査が開始され、送検・起訴に至れば有罪判決、つまり前科がつきます。初犯かつ示談成立があれば不起訴や略式命令で終結することが多いものの、悪質性や拡散性が高い事案では公判請求されるケースも実務上増えています。

社会的制裁も見過ごせません。逮捕されれば実名報道によって勤務先や家族、近隣住民に事件が知れ渡るリスクがあり、ネット記事として残れば、いわゆる「デジタルタトゥー」として将来にわたり検索される状態が続きます。前科がついた場合、職種によっては懲戒処分や資格制限の対象となり、転職や再就職にも支障が出ます。

これら3つの責任は相互に連動しており、初動対応の有無が結果を大きく左右します。この点こそが本稿の問題意識です。

「投稿を削除してしまえば逃げ切れる」は大きな誤解

ご相談のなかで非常に多いのが、「慌てて投稿を削除したので、もう特定されないですよね」というご質問です。しかし残念ながら、これは大きな誤解です。

まず、被害者側は通常、投稿を発見した時点でスクリーンショットなどによる証拠保全を済ませています。削除された後でも、URL・投稿日時・投稿内容はすべて証拠として残っており、削除そのものが「証拠隠滅を試みた事実」として情状上不利に働くこともあります。

次に、プロバイダ側にはIPアドレス・タイムスタンプ・アクセスログが一定期間(通常3ヶ月から6ヶ月程度)保存されており、投稿が表面的に削除されても、これらの記録は消えません。被害者側は、証拠保全を済ませた後、速やかに発信者情報開示手続に着手することで、削除済みの投稿についても発信者を特定することができます。

さらに、2025年4月に施行された情プラ法により、大規模プラットフォーム事業者は削除申出を受けてから原則7日以内に対応判断を行う義務を負っています。削除が迅速化する一方で、被害者側の通報と証拠保全のスピードも加速しており、「時間を稼げば忘れられるだろう」という期待はもはや通用しない状況です。

投稿削除はむしろ、証拠保全と並行して行うべき対応です。削除によって逃げ切ろうとするのではなく、早期に弁護士へ相談し、適切な対応方針を決定することが肝心になります。

加害者に連絡が届く4つの段階

加害者側として「自分の投稿が問題になっている」と認識するタイミングは、おおむね以下の4つの段階に分かれます。どの段階で弁護士に相談するかによって、その後の選択肢の幅が大きく異なってきます。

第1段階 プロバイダからの意見照会書

被害者が発信者情報の開示を求めた場合、まずコンテンツプロバイダ(SNSや掲示板の運営者)やアクセスプロバイダ(NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI、NTTぷらら、ビッグローブなどのインターネット接続業者)から、発信者に対して「発信者情報開示に係る意見照会書」が簡易書留郵便で送付されます。

プロバイダ責任制限法(現・情プラ法)6条により、プロバイダは開示請求を受けた場合、発信者の意見を聴取することが法律上義務付けられています。意見照会書には、請求者(被害者側)の氏名または名称、問題となっているSNS・掲示板の名称、問題となった投稿の内容、侵害されたとする権利の種類(名誉権・プライバシー権・著作権など)、侵害されたとする具体的理由、開示を請求されている発信者情報の項目(氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど)、証拠書類の写しなどが記載されています。ただし、請求者が示したくない意向を示している場合、請求者の氏名・理由・証拠は記載されないこともあります。

なお、意見照会書はコンテンツプロバイダから1回、アクセスプロバイダから1回、合計2回送られてくる可能性があります。2022年改正で追加された「電話番号ルート」による開示の場合、コンテンツプロバイダから電話番号の開示を受けた被害者が、電話契約者情報の開示を求める形をとることもあります。一度回答して終わりではなく、別のプロバイダから再度意見照会が届く場合がある点にご留意ください。

回答期限は通常7日から14日以内と極めて短く、焦って不適切な回答をしてしまうと、その後の交渉や訴訟で不利に働くことがあります。意見照会書が届いた時点での対応の重要性については、こちらの解説コラムで詳しく説明しています。

第2段階 発信者情報開示命令の通知

意見照会に対して「開示に同意しない」と回答した場合、被害者側は裁判所に対して発信者情報開示命令の申立てを行います。2022年10月施行の改正プロバイダ責任制限法により、従来の2段階の手続(コンテンツプロバイダへの仮処分とアクセスプロバイダへの訴訟)から、非訟手続としての「発信者情報開示命令」「提供命令」「消去禁止命令」の3点セットによって一連の手続で発信者情報の開示が完結する流れに変わりました。この手続は従来の半年から1年という期間から、3ヶ月から6ヶ月程度にまで大幅に短縮されています。

裁判所から開示命令が発令されれば、プロバイダは氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどを被害者側に開示することになります。この段階では、加害者は自己の個人情報が被害者側に把握された状態となり、交渉上の立場は急速に弱くなります。

第3段階 被害者側弁護士からの内容証明郵便

発信者情報が開示されると、被害者側の代理人弁護士から、内容証明郵便で損害賠償請求書が送付されてきます。典型的には、慰謝料として数十万円から数百万円、加えて調査費用として発信者特定のために要した弁護士費用(数十万円から百数十万円)、合計で数百万円の請求が一括で記載されています。

この段階では、すでに相手方弁護士が事案を整理しており、「払わなければ訴訟を提起する」「刑事告訴も検討する」という明確な意思表示を伴います。ここで加害者が本人で対応すると、感情的な反論や不用意な認諾によって、かえって不利な状況を招いてしまうことが実務では少なくありません。

第4段階 警察・検察からの呼び出し

被害者が先に、あるいは民事請求と並行して警察へ刑事告訴を行った場合、警察から任意出頭の要請(出頭要請)がなされ、事案によっては逮捕状による身柄拘束に至ります。逮捕されれば最大72時間の警察勾留、その後に検察官送致を経て最大20日間の勾留となり、勤務先を長期間休まざるを得なくなります。

特に拡散性が高く社会的影響の大きい事案、被害者が著名人や企業である事案、過去にも同種前科がある事案では、逮捕・勾留のリスクが現実的なものとなります。

この4段階のうち、弁護士に依頼するタイミングとしては、第1段階(意見照会書の到達時)が最も選択肢が広く、第4段階に至ってしまうと取り得る選択肢は大幅に狭まります。

意見照会書が届いた際の3つの選択肢と実務上の判断基準

意見照会書が届いた場合、加害者側に取り得る対応は、理論上は「開示に同意する」「開示に同意しない」「無視する」の3つです。それぞれの意味と、実務上どう判断すべきかを整理します。

選択肢1 開示に同意する

回答書の「同意します」にチェックして返送すれば、プロバイダから被害者側に氏名・住所などの情報が開示されます。「同意イコール全面敗北」と捉えられがちですが、実務上は、事案の内容次第では同意した方が有利に働くこともあります。

同意が有利となるのは、たとえば次のような場合です。投稿内容が明らかに違法であり、反論の余地がほとんどない場合。すでに裁判所の提供命令などによって、被害者側が加害者の端緒情報を既に把握している場合。早期に謝罪・示談の意思を伝えたい場合です。同意することで被害者側の調査費用(弁護士費用)の追加発生を抑えられ、結果として損害賠償請求額を大きく圧縮できる効果があります。また、早期の謝罪と示談の申し入れは、被害者の処罰感情を和らげ、刑事事件化を防ぐ最大の武器にもなります。

選択肢2 開示に同意しない

回答書の「同意しません」にチェックし、同意しない理由を記載して返送する対応です。不同意の場合、この「理由」の記載がきわめて重要になります。「投稿した覚えがない」「権利侵害に該当しない」「公益目的の正当な批判である」など、法的な反論を展開する場合は、添付の回答書の記載欄が狭いため、「別紙理由書記載のとおり」として別紙を添付するのが実務の運用です。

不同意としても、被害者側が裁判所に発信者情報開示命令の申立てを行い、裁判所が権利侵害性を認めれば結局は開示されます。反論に実質的な根拠があれば不同意を選択する意義がありますが、反論の余地に乏しい事案で形式的に不同意を選択しても、手続きを長引かせ、被害者側の調査費用を増やすだけで終わってしまう可能性があります。

選択肢3 無視する

回答書を返送せずに放置する選択肢ですが、これは実務上、最も避けるべき対応です。プロバイダは回答がない場合でも、「開示について異議がない」「合理的な理由なく開示に同意していない」と判断して、プロバイダの判断で開示に進むことがあります。加えて、無視したことが「反省の意思がない」と情状上不利に評価される可能性もあります。

意見照会書は、加害者側にとって法的に保障された反論の機会です。その機会を自ら放棄することは、どの角度から見ても得策とはいえません。

身に覚えがない場合の対応

「意見照会書が届いたが、そのような投稿をした覚えが全くない」というご相談もよくあります。この場合にまず確認していただきたいのは、次のような点です。ご自身の契約するインターネット回線で、同居のご家族(配偶者、子、親など)や友人が書き込みをしていないか。自宅のWi-Fiを家族や第三者が利用していた可能性はないか。スマートフォンやPCを他人に貸したり、勝手に使われたりした可能性はないか。ファイル共有ソフト(BitTorrent、ビットトレントなど)を過去に利用したことはないか。著作権侵害事案では、意図せず権利侵害しているケースも少なくありません。

意見照会書が届いた時点で、少なくともご自身が契約する回線から問題の投稿がなされたことは、プロバイダ側で確認が済んでいます。したがって、「自分ではないことを証明する」ことができない限り、証拠上は契約者本人が投稿者として扱われてしまいます。同居家族が投稿者の場合、その家族名義で回答書を作成する形にはなりますが、この対応は法的な影響が大きいため、弁護士に相談したうえで行うべきでしょう。

2025年施行「情プラ法」が加害者に与える影響

2025年4月1日に施行された「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」が加害者側にどのような影響を及ぼすかについても、押さえておきたいポイントです。

情プラ法は、従来の「プロバイダ責任制限法」を改正・改称したもので、月間アクティブユーザー数が一定規模を超える大規模プラットフォーム事業者に対し、削除要請への迅速な対応と、削除基準・運用状況の透明化を義務付けています。2025年4月にはGoogle LLC、LINEヤフー、Meta Platforms、TikTok、X Corp.の5社が、同年5月にはドワンゴ、Pinterest Europe、サイバーエージェントなど4社が、総務大臣によって大規模特定電気通信役務提供者として指定されました。

実務上のポイントは、これら大規模事業者には、権利侵害情報の削除申出を受けてから原則7日以内に対応判断を行う義務が課されたという点です。従来、事業者の対応の遅さが被害者側の大きな悩みでしたが、削除・開示の実務は大幅に加速しています。加害者側から見れば、「投稿を放置していればそのうち忘れられるだろう」という甘い期待はもはや通用しないと理解しておくべきでしょう。

現在のネット誹謗中傷をめぐる実務は、投稿は発見されやすく、発信者は特定されやすく、訴えられやすい、という三方向の圧力が強まっている時代に入っています。この情勢で加害者側が取るべき戦略は、事態を引き延ばすことではなく、早期の示談交渉によって被害者の感情と実害を金銭的に清算し、刑事責任を回避することに尽きます。

なぜ早期に弁護士へ依頼し、示談解決を目指すべきか

ここからが本稿の最重要ポイントになります。加害者側で動く場合、示談解決を早期に実現することが、経済的にも社会的にも最良の戦略となります。

示談成立で得られるメリット

最初に挙げられるのが、損害賠償額の適正化・減額です。被害者側の請求書には、裁判例より高めの慰謝料額や、当該加害者が本来負担すべきでない部分まで含んだ調査費用が計上されていることが、実務上よくあります。弁護士が介入し、裁判例の蓄積に基づいて適正金額を算定して交渉することで、請求額が半額以下になる事案も珍しくありません。

次に大きいのが、刑事事件化の回避です。名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪ですので、被害者の告訴がなければ検察は起訴できません。示談書のなかに「被害者は加害者に対し刑事告訴をせず、既に告訴している場合はこれを取り下げる」という告訴取下げ条項を入れ、実際に告訴取下書を警察・検察に提出してもらえれば、不起訴処分となり、前科はつかずに済みます。

親告罪でない類型であっても、示談成立のメリットは大きいものがあります。信用毀損罪・業務妨害罪や脅迫罪は親告罪ではありませんが、示談成立は検察官の起訴不起訴判断や裁判所の量刑判断に強く影響します。示談成立を情状資料として提出することで、不起訴や略式命令、執行猶予付判決を得られる可能性が高まります。

そして、事件の一括終結という効果も見逃せません。示談書に清算条項と秘密保持条項を適切に盛り込めば、示談金の支払いをもって当該投稿に関する一切の紛争が終了します。将来にわたって追加請求を受けたり、話題を蒸し返されたりするリスクを遮断できる効果は、当事者の心理的負担の軽減という点でも非常に大きいといえます。

加害者本人が直接連絡することの危険性

「自分で被害者に謝罪して示談したい」と考える方は少なくありません。しかし、加害者本人が直接連絡を取ることは、原則として避けるべきです。

被害者は、加害者本人に対して強い処罰感情、恐怖心、怒りを抱いているのが通常です。直接接触すれば「二次加害」「接近の続行」と受け止められ、刑事事件化を加速させる結果になりかねません。被害者側に弁護士が介入している事案では、本人が直接連絡を入れることで「弁護士を通さず圧力をかけた」と非難材料にされるケースも実際に見られます。

理論上は、当事者間の直接示談も有効です。しかし実務上は、弁護士を介在させることで初めて被害者側も冷静に交渉のテーブルに着く、という構造があります。加害者側の弁護士が被害者側の弁護士(または被害者本人)と交渉することで、事務的かつ感情論を排した形で金額と条件の合意に至るのが、現場の実情です。

示談成立のタイミングで処分結果が変わる

刑事事件化する事案では、示談成立が検察官の起訴前なのか起訴後なのかによって、処分結果は大きく変わります。

起訴前に示談が成立すれば不起訴処分となる可能性が高く、その場合は前科はつきません。起訴後に示談が成立した場合は量刑こそ軽くなりますが、すでに起訴されているため有罪判決自体は避けられず、罰金以上であれば前科がつきます。この差は資格制限や再就職に直結する、重大な違いです。

したがって、「警察から呼び出しがあったが、まだ正式に起訴はされていない」段階こそが、加害者側弁護の最大の山場になります。この時期に被害者側との示談交渉を進め、起訴前に示談書を成立させることが、弁護士としての最重要ミッションとなります。

誹謗中傷事案の示談金相場

ご相談時に最も多くいただく質問が、「示談金はいくらかかるのか」という点です。ここは理論面と実務面の両方から整理します。

裁判所認定の慰謝料相場

ネット誹謗中傷に関する慰謝料の裁判例を整理すると、個人が被害者の場合は10万円から50万円程度、法人や事業者が被害者の場合は50万円から100万円程度が、裁判例の中核的な相場となっています。最高裁平成15年3月14日判決や平成29年1月31日判決などで示された考慮要素は、投稿の拡散規模、継続期間、表現の悪質性、被害者の社会的地位、被害の実害などです。

類型別に見ると、事実の摘示を伴う名誉毀損は個人で10万円から100万円、法人で50万円以上になることもあります。事実の摘示を伴わない侮辱は、個人で数万円から数十万円と相対的に低額にとどまる傾向があります。プライバシー侵害は10万円から50万円が目安ですが、性生活や裸体など侵害の程度が重い場合は100万円以上になることもあります。

示談金額は相場より高くも低くもなり得る

重要なのは、これらがあくまで判決認容額の相場であって、示談金には上限も下限もないという点です。示談交渉では、被害者側が判決相場より高めの金額を要求してくるのが実務上の通例です。特に、加害者が「勤務先や家族に知られたくない」「刑事告訴を取り下げてほしい」と強く希望する場合、被害者側は「秘密を守る対価」として相場以上の金額を要求してくる傾向があります。被害者が著名人、社会的地位のある人物、医療法人などで社会的評価の低下が重大な場合、また投稿が長期間にわたり拡散性が高く被害者に精神疾患の発症や退職などの具体的被害が生じている場合も、示談金額は相場を大きく上回ることがあります。

一方で、適切な交渉によって相場より低い金額で示談に至るケースもあります。加害者が真摯に反省して速やかに投稿削除・謝罪を行った場合、複数の投稿者が存在し当該加害者の関与分が限定的な場合、加害者の経済的資力が乏しい場合、被害者側の調査費用の按分計算で減額余地がある場合などです。

調査費用の按分交渉がカギ

ネット誹謗中傷事案で示談金額を押し上げる最大の要因は、実は慰謝料本体ではなく「調査費用」だということは、意外と知られていません。被害者が発信者を特定するために要した弁護士費用(発信者情報開示請求のための仮処分費用、開示命令手続の費用など)は、投稿と相当因果関係のある損害として、裁判例上、被害者から加害者へ全額または大部分を請求することが認められています。

この調査費用は、開示の対象となった投稿の件数と、最終的に特定に至った加害者の数に応じて按分するのが一般的です。たとえば10件の投稿に対して開示請求を行い、そのうち2件が当該加害者の投稿だった場合、調査費用の総額のうち2割が当該加害者の負担とされるのが通例です。

加害者側弁護としては、単に「慰謝料の相場」を主張するだけでは不十分で、調査費用の按分計算が妥当かどうか、被害者側が提示してきた金額の算出根拠を精査することが欠かせません。この交渉を本人が行うことは事実上不可能であり、弁護士介入の価値が最も顕在化する場面のひとつだといえます。

示談成立までの具体的な流れ

実際に当事務所で加害者側弁護を受任した場合、一般的には次のような流れで進めていきます。

ステップ1 初回相談・投稿内容の確認

まず、届いた意見照会書・内容証明郵便・警察からの呼出状などの書類と、ご自身の投稿内容(スクリーンショットなどで確認できる範囲)をお持ちいただき、ご相談に来ていただきます。投稿が本当に違法性を帯びるのか、反論の余地があるのか、それとも早期に示談へ動くべきなのか、事案の性質と証拠状況から見通しを立てます。

ご相談時にご準備いただきたい書類は、意見照会書の原本および回答書の書式、内容証明郵便(受け取っている場合)、被害者側弁護士からの書面一式、問題となっている投稿のスクリーンショット(URLと投稿日時が分かるもの)、ご自身が過去に当該アカウントで行った他の投稿のリスト(把握できる範囲で結構です)、身分証明書、印鑑、といったところです。

この段階でご依頼者が最も不安を感じるのは、「会社や家族にバレるのか」という点です。加害者側の刑事弁護と同様、ネットトラブル加害者側の弁護でも、当事務所では守秘義務に加えて、連絡方法、面談場所、書類送付の形態などについて徹底的に配慮いたします。

ステップ2 弁護士を通じた被害者への連絡

受任後、弁護士から被害者側(本人または代理人弁護士)に対し、「代理人として受任した旨の通知書(受任通知)」を送付します。これ以降、被害者側は加害者本人ではなく弁護士を交渉窓口として扱わなければならなくなります。これによって加害者本人の心理的負担は大きく軽減され、仕事や家庭生活への影響も最小限に抑えることができます。

ステップ3 示談条件の交渉

被害者側の請求内容を精査し、慰謝料額の適正性、調査費用の按分根拠、謝罪文の内容、削除や再発防止の約束、告訴取下げの条件などについて、書面と電話で交渉を重ねていきます。実務上は3回から5回のやり取りで条件が固まることが多いのですが、拡散性が高く被害者の処罰感情が強い事案では、数ヶ月を要することもあります。

ステップ4 示談書の作成

条件がまとまったら、弁護士が示談書案を作成します。加害者側弁護における示談書で特に重要な条項は、次の4つです。

清算条項(本示談書に定めるほか、一切の債権債務が存在しないことの相互確認)。これがないと、将来、被害者側が追加請求をしてくるリスクが残ります。

秘密保持条項(口外禁止条項)。示談内容、相手方の氏名、示談の存在自体を、みだりに第三者に開示しないことを取り決める条項です。これは加害者側にとって、勤務先や家族に知られるリスクを断つうえで欠かせない条項になります。

再発防止条項(今後、同種の投稿・接触を行わないことの約束)。

告訴取下げ条項(親告罪の場合、被害者が刑事告訴をせず、既に告訴している場合は速やかにこれを取り下げる旨の約束)。

ただし、口外禁止条項については実務上のトレードオフに留意が必要です。加害者側が「絶対に他人に知られたくない」と強く希望している事実を被害者側が察知すると、被害者側は「口外禁止の対価」として慰謝料の増額を求めてくる傾向があります。口外禁止条項を入れる代わりに、相場より高めの示談金を飲まざるを得ない場合もあるということです。この判断は、事案ごとに慎重に行う必要があります。

ステップ5 示談金の支払いと受領書

示談書に双方が署名・押印のうえ、合意金額を被害者側弁護士の預り口座へ振り込みます。被害者側から受領書および(親告罪の場合)告訴取下書の写しを受領し、刑事事件化している場合はこの告訴取下書を捜査機関に提出することで不起訴処分を得る、という流れになります。

示談成立までに要する期間

理論上は、意見照会書段階から迅速に動けば1ヶ月から2ヶ月程度で示談に至ることも可能です。しかし実務上は、被害者側弁護士との書面のやり取りや、双方の金額調整に要する時間を考えると、3ヶ月から6ヶ月程度を見込んでおく必要があります。逆にいえば、内容証明郵便が届いてから漫然と時間を過ごしてしまうと、その間に被害者側の処罰感情はむしろ悪化していきますので、早期の初動こそが有利な条件での示談成立のカギとなります。

よくあるご質問

Q1 意見照会書を無視したらどうなりますか

プロバイダは、回答がない場合でも、プロバイダの判断で開示を行うことがあります。加えて、無視したという事実は「反論の機会を放棄した」「反省の意思がない」と情状上不利に評価されることになり、裁判所や検察からの心証も悪くなります。無視だけは避けるべきです。

Q2 投稿を削除すれば責任を免れますか

前述のとおり、免れません。被害者側は削除前にスクリーンショットなどで証拠保全しているのが通常ですし、プロバイダ側にもIPアドレス・タイムスタンプ・アクセスログが一定期間は残っています。削除は証拠隠滅の試みとして情状上不利に働くこともあります。

Q3 弁護士費用はどれくらいかかりますか

事務所によって異なりますが、一般的には着手金(受任時にお支払いいただく費用)と報酬金(成功時にお支払いいただく費用)の2段階制を採用する事務所が多く、合計で数十万円から100万円程度が目安になります。経済的資力に応じた費用設定や、分割払いに対応する事務所もありますので、ご相談時に明確なお見積りをご確認いただくのが安心です。

Q4 会社や家族にバレずに解決できますか

適切な対応を取れば、相当程度可能です。弁護士が窓口となることで本人への直接連絡をブロックでき、示談書に口外禁止条項(秘密保持条項)を盛り込むことで、被害者側からの将来的な公表リスクも遮断できます。ただし、逮捕・報道に至った段階では隠蔽は困難になりますので、早期段階での弁護士相談が最大の防御策となります。

Q5 示談金を払う経済的余裕がありません

分割払いによる示談、親族からの援助、あるいは事案の軽重に応じた大幅減額交渉など、現実的な解決策を検討いたします。資力の乏しさは減軽要因のひとつですし、被害者側も「支払い不能な金額で判決を取っても回収できない」ことは理解していますので、現実的な金額で合意できるケースもあります。

Q6 刑事告訴されたら必ず逮捕されますか

いいえ、必ず逮捕されるわけではありません。捜査機関は、事案の悪質性、証拠の程度、加害者の態度などを総合考慮して、逮捕するか任意捜査で進めるかを判断します。初犯で反省が認められ、示談成立に向けて動いている事案では、任意出頭・在宅捜査で終わることが多いというのが実務の感覚です。逆に、複数回の投稿、重大な被害、逃亡のおそれなどがある場合は、逮捕のリスクは高まります。

堺市近郊で加害者側弁護を依頼する際に確認すべきポイント

最後に、堺市・堺東エリアで加害者側弁護を依頼される際に、弁護士選びの観点から確認していただきたいポイントを整理します。

まず、加害者側での受任実績があるかどうかです。ネット誹謗中傷案件は被害者側で扱う事務所が多く、加害者側を積極的に受けている事務所は限られます。被害者側と加害者側とでは、依頼者の利益のために主張する方向性が正反対であり、加害者側弁護の実務ノウハウ(調査費用の按分計算、告訴取下げ条項の作り方、警察・検察との連絡方法など)は独特のものがあります。

次に、地域の警察・検察と普段から接点がある事務所であるかという点です。堺警察署、堺北警察署、大阪地検堺支部との実務対応に慣れている弁護士であれば、刑事事件化した場合の呼び出し時期や処分見込みの予測がより正確になります。

さらに、守秘義務と情報管理が徹底されているかも重要です。加害者側弁護では、ご家族や勤務先に事案が知られないよう、事務所からの連絡方法、書類の送付先、面談の設定まで、細やかに配慮する必要があります。

費用体系が明確であるかも、事務所選びの重要な指標になります。一般に、着手金・報酬金制を採用する事務所が多く、経済的基準に応じた金額設定がなされますが、ご相談の段階で総費用の見積もりを書面で提示できる事務所を選ぶのが安心でしょう。

早期相談で選択肢は大きく広がります

ネット上の書き込みで加害者となってしまった場合、事態を放置すればするほど取り得る選択肢は狭くなり、金銭的・社会的なダメージは拡大していきます。2025年4月に施行された情プラ法、2022年10月施行の発信者情報開示命令制度、2022年7月の侮辱罪厳罰化によって、現在のネット誹謗中傷実務は加害者にとって極めて不利な方向へ急速に変化しています。

一方で、早期に弁護士へ相談し、適正な示談金額で合意を成立させることができれば、慰謝料の減額、刑事事件化の回避、勤務先・家族への影響の最小化、事件の一括終結という4つのメリットをすべて享受することができます。意見照会書が届いた段階、内容証明郵便が届いた段階、警察から呼び出しを受けた段階、いずれの段階でも、まだ対応できる余地は残っています。しかし、段階が進めば進むほど選択肢は確実に狭まっていきます。

当事務所では、堺東駅徒歩5分という立地を活かし、堺市・大阪府南部エリアの皆様から、ネット誹謗中傷の加害者側ご相談を多く承っております。加害者側のご相談ページおよびインターネットトラブルのご相談ページもあわせてご覧ください。

「自分の投稿が問題になっているかもしれない」「意見照会書が届いて何をすればよいかわからない」「身に覚えはないが家族が使ったのかもしれない」「内容証明で数百万円の請求を受けた」「警察から呼び出しがあった」といった場合、どの段階のご相談であっても、まずは一度お話をお聞かせください。ご相談内容の秘密は厳守いたします。田渕総合法律事務所のお問い合わせフォーム、または電話(072-248-4848、平日9時から19時、土日は要予約で相談可能)にて、24時間ご予約を受け付けております。早い段階でのご相談が、ご自身とご家族の生活を守るうえで最も確実な選択になります。