養育費増額調停とは|増額・減額が認められるケースや手続きの流れを紹介
子供の養育費離婚後のトラブル離婚後に取り決めた養育費は、子どもの成長や親の収入状況の変化によって、当初の金額が適切でなくなることがあります。特に教育費や医療費などが増えた場合、養育費の増額を求めるケースは少なくありません。その際に利用されるのが「養育費増額調停」です。
この記事では、養育費増額調停とは何か、増額が認められる条件、手続きの基本的な流れについて解説します。また、「養育費を減額したい」「増額調停を申し立てられた」といった方にも参考となる情報を記載しているため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
養育費増額調停とは
養育費増額調停とは、離婚時や別居時に取り決めた養育費の金額を、後から変更する必要が生じた場合に家庭裁判所に申し立てる調停手続きのことです。子どもが成長するにつれて教育費や生活費が増えることは自然な流れであり、取り決め当時の金額では不足してしまうケースも多々あります。
例えば、高校や大学への進学に伴う学費、部活動や習い事にかかる費用、病気やけがによる医療費の負担など、実際に必要となる支出が年々変化していくこともあるでしょう。
調停では、裁判官と調停委員が中立的な立場から当事者双方の意見を聞き取り、生活状況や収入、子どもの利益を考慮しながら妥当な金額を検討します。最終的には双方の合意を目指し、合意が整えば調停調書に基づいて養育費の金額が変更されます。調停調書は判決と同じ効力を持ち、後のトラブル防止を防ぐ重要な書類です。
なお、養育費に関する詳細な解説は、次の記事を参考になさってください。
参考記事:子供の養育費とは
一度取り決めた養育費の額を増額・減額するには3つの条件がある
養育費は一度決めたら一生そのままというわけではありません。法律上も「事情の変更」があれば、増額・減額を求めることが可能です。ただし、誰でも自由に請求できるわけではなく、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 養育費の合意をしたときから事情が変わってしまった
- 養育費の合意をしたときに、事情が変わることを予測できなかった
- 養育費の増額(あるいは減額)をする必要があると認められる
上記の条件は、増額を求める側だけでなく、減額を希望する側や申し立てられた側にとっても同じです。自分の立場を整理し、調停で正しく主張するための根拠になります。
養育費増減額のための手続については、以下の記事を参考になさってください。
参考記事:離婚後に養育費などを変更したい
養育費の増額が認められやすいケース
前述した「養育費の増額・減額に必要な条件」に該当するケースについて、具体的にみていきましょう。
養育費を受け取る側の収入が減少した
会社の倒産やリストラで失業した場合、または病気やケガによって働けなくなり収入が大きく減少した場合は、やむを得ない事情と判断されやすく、養育費の増額が実現する可能性があります。受け取る側の収入が減ると、子どもの生活に直接的な影響が及ぶため、調停で考慮されやすくなります。
養育費を支払う側の収入が増加した
養育費を支払う側が昇進や転職によって収入が大幅に増えた場合も、事情変更にあたると判断されることがあります。当初の取り決め時点では想定していなかった収入増があると、不公平であると増額が認められやすくなります。
子どもの教育費が増加した
子どもが私立学校や大学に進学した場合、学費や通学費用が大きく増えることがあり、養育費の増額が実現できる可能性があります。ただし、養育費を取り決める時点で、進学について支払う側の同意があった場合に限ります。
例えば、養育費を取り決める時点で支払う側が進学に反対していた場合は、たとえ子どもが大学に入って教育費が増加しても、養育費の増額は原則として認められません。
また、養育費の支払いは、原則として子どもが成人する20歳までとされていますが、大学進学などの理由から、20歳を超えても養育費の支払いを継続するよう延長が認められるケースもあります。
子どもの医療費が増加した
子どもが病気にかかり、継続的に多額の医療費や治療費がかかる場合は、養育費の増額が認められやすくなります。ただし、これらの費用については、診断書や医療費の領収書など、具体的な証拠を提示して増額の必要性を主張することが重要です。
【支払っている側向け】養育費の減額が認められやすいケース
養育費を支払っている側も、状況に応じて減額を請求することが可能です。前述した「養育費を減額する条件」に該当する例として、下記が挙げられます。
支払う側の収入が大幅に減少した | 会社の業績不振による減給やリストラ、病気やケガで就労が困難になるなど |
支払う側に新たな扶養義務が生じた | 養育費を支払う側が再婚して新たに子どもが生まれた場合や、養子縁組をした場合など、扶養家族が増えたケース |
受け取る側の経済状況が好転した | 養育費を受け取る側の収入が大幅に増加したり、再婚して生活基盤が安定したりした場合など |
養育費はどのくらい増額できる?
家庭裁判所では、養育費の金額を算定する際に「養育費算定表」という基準を用いています。この算定表は、支払う側・受け取る側それぞれの収入、子どもの人数や年齢をあてはめることで、おおよその相場を確認できるものです。
養育費をどのくらい増額できそうか知りたい方は、まず養育費算定表と照らし合わせて相場を確認してみてください。ただし、この算定表はあくまで標準的な家庭を想定したものであり、私立学校への進学や留学、継続的に高額な医療費がかかる場合など、特別な事情は反映されていません。
より正確な増額見込みを知りたい場合は、弁護士に相談し、自分の家庭の事情を反映したシミュレーションをしてもらうとよいでしょう。
参考:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(裁判所)
一時的かつ高額な出費がある際に請求できる「特別費用」とは?
養育費は「子どもの生活費」をカバーするためのものであり、前述した算定表を基準に算出されます。しかし、日常の養育費ではまかないきれない一時的かつ高額な出費が発生することもあります。そのような場合に請求できるのが「特別費用」です。
特別費用の例としては、子どもの入学金や受験料、修学旅行費用、スポーツや芸術活動のための特別な費用、大きな病気やけがに伴う高額な医療費などが含まれます。特別費用には明確な上限や決まった金額はなく、ケースごとに必要性や金額の妥当性を判断します。
養育費の増額請求〜調停成立までの流れ
「養育費を増額したい」と思っても、どのように手続きを進めればよいのか悩む方も多くいるでしょう。ここでは、養育費を増額するための手続きや流れについて解説します。
元配偶者と協議する
養育費を増額したい場合、いきなり家庭裁判所に調停を申し立てるのではなく、まずは元配偶者との話し合いから始めるのが一般的です。話し合いで双方が納得できれば、家庭裁判所を介さずに解決することも可能です。
合意が成立した場合は、口頭の約束ではなく書面に残しておきましょう。公正証書にしておくと、後々支払いが滞った際に強制執行ができるため安心です。もし協議がまとまらない、または相手が話し合いに応じない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停に必要な書類を準備して家庭裁判所に申し立てる
調停を申し立てるには、基本的に以下の書類を準備する必要があります。
- 申立書(原本と写しを1通ずつ)
- 子の戸籍謄本(全部事項証明書)1通
- 申立人の収入関係の資料(源泉徴収票、給料明細、確定申告書などの写し)
- 事情説明書1通
- 進行に関する照会回答書1通
- 送達場所の届出書1通
- (必要に応じて)非開示の希望に関する申出書
- 収入印紙(子ども1人につき1,200円)
- 郵便切手(裁判所ごとに金額・内訳が異なるため要確認)
これらを揃えて、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か、双方が合意する家庭裁判所に申し立てます。
調停委員を介して話し合いを進める
調停が始まると、調停委員(男女2名のことが多い)と裁判官が中立的な立場で双方の意見を聞き取り、話し合いを進めます。申立人と相手方は同席するのではなく、交互に別室で話を聞かれることが多いため、直接顔を合わせたくない人も安心できます。
調停委員から質問されることは、「養育費が不足している理由」「収入や支出の状況」「子どもの生活や教育にかかる具体的費用」などです。そのうえで、双方の収入資料や養育費算定表をもとに妥当な金額を検討し、合意を目指します。合意に至れば調停調書が作成され、法的拘束力を持つ養育費の取り決めとなります。
養育費増額調停が不成立となった場合は?
調停はあくまで当事者同士の合意を前提とした話し合いの場です。そのため、双方が歩み寄れずに合意に至らなかった場合は「調停不成立」となり、自動的に「審判」へ移行します。
審判では、調停のように双方の合意を目指すのではなく、裁判官が当事者の収入や子どもの養育に必要な費用、養育費算定表などを参考にして、客観的な判断を下します。その結果、養育費の増額が認められる場合もあれば、現状維持や減額となる場合もあります。審判の決定には法的拘束力があるため、相手が従わない場合には強制執行が可能です。
自力で養育費増額調停をするリスク
養育費増額調停は、本人だけでも申し立てや進行は可能です。しかし、法的な知識がないまま手続きを進めると、思わぬリスクを抱えることがあります。ここでは主なリスクについて解説します。
養育費が減額されるリスクがある
増額を求めて調停を申し立てたつもりが、逆に減額されるケースも存在します。裁判所は子どもの利益を最優先に判断しますが、過去の支払い状況や支払う側の負担も考慮します。例えば、算定表と比較して本来の相場より高額な養育費を受け取っていた場合、適正額に引き下げられる可能性があります。
解決が長引く可能性がある
調停は「話し合いの場」であるため、当事者同士の主張が平行線をたどると長期化するリスクがあります。資料の準備不足や主張の根拠が弱いと、調停委員の判断材料が不足し、解決までに何度も期日を重ねることになりかねません。
自力で進める場合、このような事態に対応できず、時間的にも精神的にも大きな負担となる可能性があります。
養育費の増額請求を弁護士に相談するメリット
養育費の増額を成功させるには、収入や生活状況の変化を具体的に証明する必要があり、法律的な知識や手続きの対応も求められます。そのため、専門知識を持つ弁護士に相談することが賢明です。ここでは、弁護士に依頼するメリットを紹介します。
証拠収集をサポートしてもらえる
養育費の増額を認めてもらうには、相手方の収入や生活状況の変化を裏付ける証拠が不可欠です。しかし、どの資料が有効なのか、どのように入手すればよいのかは一般の方には分かりにくい部分です。
弁護士に相談すれば、必要となる証拠の種類や収集方法について的確なアドバイスを受けられ、無駄なく準備が進められます。
法的根拠に基づいた主張ができる
調停や裁判で増額を求める際には、「養育費算定表」や判例を踏まえた法的主張が重要になります。弁護士が代理人として交渉にあたることで、感情的にならずに合理的な主張ができ、相手方に対しても説得力を持って交渉を進められます。
煩雑な手続きを任せられる
養育費の増額請求には、調停の申立書作成や裁判所への対応など、多くの手続きが発生します。これらをすべて自分で対応するのは大きな負担です。弁護士に依頼すれば、書類作成や期日の出廷などを任せられるため、精神的なストレスを大きく軽減できます。
養育費に関するお悩みは「田渕総合法律事務所」へご相談ください
養育費は子どもの健やかな成長に直結する大切な問題です。「養育費を増額・減額したい」といったお悩みがある方は、ぜひ田渕総合法律事務所にご相談ください。
田渕総合法律事務所では、養育費に関するご相談を幅広く取り扱っており、初回相談は30分無料でご利用いただけます。堺東駅から徒歩5分というアクセスの良さに加え、オンラインでの相談も可能ですので、遠方の方や外出が難しい方でもご利用いただけます。
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養育費に関するよくある質問
ここでは、養育費に関してよく寄せられる質問に回答いたします。
養育費の増額請求を無視された場合は?
養育費の増額を求めて協議をしても相手が応じず、家庭裁判所に調停を申し立てても呼び出しに応じないケースがあります。このような場合、調停は不成立となり、自動的に審判へ移行します。
審判で増額が認められたにもかかわらず、相手が支払いを拒否する場合には、最終的に給与や預貯金などの差し押さえも可能です。無視されたからといって諦める必要はありません。
養育費増額調停にかかる費用は?
調停を申し立てるには、一定の費用が必要です。具体的には、子ども1人につき1200円分の収入印紙が必要となり、さらに裁判所からの連絡や書類送付のために郵便切手を納めます。切手の金額や内訳は裁判所ごとに異なるため、事前に管轄の家庭裁判所へ確認しておくと安心です。
養育費は過去分を遡って請求できる?
養育費は「現時点の子どもの生活を支える費用」であり、原則として過去に遡って請求はできません。ただし、過去に養育費を請求していたものの支払われていなかった場合は、請求できる可能性があります。
まとめ
養育費は、一度取り決めた金額であっても増額や減額が認められる場合があります。一般的には協議から始まり、話し合いがまとまらない場合には家庭裁判所に調停を申し立てます。養育費は算定表により目安が決まっていますが、特別な事情も考慮されるため、適切に主張することが大切です。
法的に有効な証拠集めや交渉、手続きのサポートを受けたい場合は、弁護士への相談をご検討ください。
◆ 略歴
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2004年 防衛大学校 中退
2009年 大阪市立大学法学部 卒業
2014年 司法試験予備試験合格
2016年 大阪弁護士会登録(69期)
<所属>
大阪市立大学(現在の大阪公立大学)法学部 非常勤講師
大阪市立大学ロースクール アカデミックアドバイザー
大阪市立大学 有恒法曹会
大阪弁護士会 行政問題委員会、行政連携センター
<資格>
弁護士
行政書士
教員免許(中学社会・高校地歴公民)
<著書>
「生徒の自殺に関する学校側の安全配慮義務違反・調査報告義務を理由とする損害賠償請求事件」(判例地方自治469号掲載)
「行政財産(植木団地)明渡請求控訴事件」(判例地方自治456号掲載)
<学会発表>
「改正地域公共交通活性化再生法についての一考察-地域公共交通網形成計画に着目して-」(公益事業学会第67回大会)
◆ ホームページ
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