学校で体罰を受けたときの対応は?法的措置や流れを解説
国家賠償学校ひと昔前は、教師が生徒に対して「げんこつ」「ビンタ」「廊下に立たせる」など、体罰と呼べる行為が当たり前のように行われていました。
時代の変化とともに社会全体に問題意識が形成され、体罰は減少しています。とはいえ、文部科学省が公表する「体罰の実態把握について(令和2年度)」によると、令和2年度に全国の国公私立学校453校で、485件の体罰が確認されているのも事実です。
体罰は学校教育法第十一条で禁止されている行為であり、損害賠償の請求や刑事告訴が可能です。この記事では、学校で体罰を受けたときの対応や法的措置について解説します。
(参考:体罰の実態把握について(令和2年度)|文部科学省:https://www.mext.go.jp/content/20211220-mxt_syoto01-000019568_007.pdf)
目次
そもそも体罰とは?
一般的に体罰とは、教員が児童・生徒に対して、身体的侵害や肉体的苦痛を与える行為(罰)のことを指します。学校教育法第11条では、以下のように記されています。
「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」
(引用:学校教育法 | e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000026)
上記のとおり、体罰は法律で禁止されています。しかし、「懲戒は可能」とも定められています。では、何が禁止される体罰で、何が許される懲戒になるのでしょうか。ここでは、それぞれの違いが分かるよう、具体例を紹介します。
体罰の具体例
体罰の具体例として、以下が挙げられます。
- 話を聞く態度の悪い児童・生徒の足を踏みつける
- 落ち着きのない児童を突き飛ばす
- 遅刻した生徒の頬を平手打ちする
- 授業中寝ている生徒の頭を教科書で叩く
- 髪を染めてきた生徒の髪の毛を引っ張る、切る、無理やり染め直す
- トイレに行きたいと訴える児童に対し、一切、教室から出ることを許さない
- 教科書を忘れた児童に対し、罰として正座で授業を受けるよう指示し、児童は苦痛を訴えるものの、その姿勢を維持させる
懲戒の具体例
懲戒は、不正・不当な行為に対して戒めの制裁を与えることを指す言葉です。体罰と同じように児童・生徒に不利益があるものの、肉体的苦痛は伴いません。以下は、懲戒の具体例です。
- 放課後に児童・生徒を教室に居残りさせる
- 授業中に生徒を起立させる
- 宿題や清掃を課す
- 授業態度の悪い生徒に対し、教室内の秩序を維持するために教室外に退去させる
- 遊んでいる児童を叱り、席につかせる
- 部活動に不真面目な生徒を試合に出さず、見学させる
正当な行為
やむを得ない状況においては、教師から児童・生徒に対する身体的接触や有形力の行使も認められています。具体例は以下のとおりです。
- 教師に暴力をふるう生徒を体で押さえつけた
- 生徒同士の喧嘩を辞めさせるために、両肩を力強くつかんで引き離す
- 試合中に相手選手とトラブルになった生徒を、押さえつけて制止させる
不適切な指導も対応を求めることが可能
身体的な侵害や肉体的苦痛を与える体罰ではなくても、必要以上に生徒を叱ったり理不尽な評価をしたりする教員に対しては、不適切な指導であるとして対応を求めることが可能です。
不適切な指導の例として、以下が挙げられます。
不適切な指導 | 例 |
人格、人権、存在を否定するような暴言 | ・「邪魔だ」
・「最低だ」 ・「人間のくずだ」 |
能力を否定する発言 | ・「こんな簡単な問題もできないのか」
・「お前は何もできないな」 |
容姿に対する侮辱 | ・「ブス」
・「きもい」 ・「チビ」 |
自尊心を傷つける行為 | ・忘れ物の多い生徒を紙に張り出す
・多くの教師や生徒が見ている前で叱責する |
恐怖や不安を与える威圧的な行為 | ・大声で怒鳴る
・黒板を叩く ・チョークを投げる |
理不尽な行為・指導 | ・言い分を無視した思い込みの指導
・話を聞かない生徒がいる班を連帯責任にし、プリントを配らない |
精神的に過度な負担を与える行為 | ・無理難題を強制する
・満腹を訴える生徒に対して、給食の時間が過ぎても完食するまで食べさせる |
上記のような行き過ぎた指導は、児童・生徒を精神的に追い込んでしまいます。不適切な指導を受けている場合は、一刻も早く学校側に報告し、対応を求める必要があります。
体罰を受けたときに取れる法的措置
体罰は学校教育法第11条によって禁止されている行為であるため、子どもの健全な教育環境を守るためにも、迅速に法的措置を取ることが大切です。体罰を受けたときに取れる法的措置として、以下の3つが挙げられます。
民事での損害賠償請求
体罰は民法における不法行為に該当し、損害賠償を請求できます。ただし、公立学校と私立学校とでは損害賠償の請求先が異なる点に注意が必要です。
【公立学校の場合】
国家賠償法第1条1項により、公立学校で起きた体罰について公務員個人は法的責任を負いません。つまり、体罰をした教師個人を民事で訴えることは不可能です。公立学校の場合は、学校を設置する国または地方公共団体を相手方として、国家賠償請求訴訟を提起することとなります。
【私立学校の場合】
私立学校の教師は公務員ではないため、民法第709条により、体罰をした教師個人を訴えることが可能です。また、教師個人に加えて、教師を雇用している学校に対しても使用者責任(民法第715条)を追及できます。
(参考:国家賠償法|e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000125_20150801_000000000000000)
(参考:民法|e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
刑事での告訴・被害届
児童・生徒に対する身体的暴力は、暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)に該当する場合があります。
教師の殴る蹴るなどの暴力行為によって児童・生徒が負傷した場合は「傷害罪」、負傷しなかった場合は「暴行罪」として刑事告訴が可能です。また、これら刑事責任は公立学校、私立学校問わず追及できます。
(参考:刑法|e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045)
懲戒処分の促し
体罰をした教師に対し、公立学校であれば地方公務員法第29条によって懲戒処分(免職、停職、減給、戒告処分)がなされます。私立学校においても、就業規則に従って公立学校と同様に処分が下されることとなります。
具体的にどのような処分が下されるのかは、体罰の内容や回数によってさまざまです。例として、大阪市教育委員会が定める、体罰・暴力行為に対する処分等の基準を一部紹介します。
体罰・暴力行為に対する処分等の基準区分 | 処分の内容 |
傷害がなく、児童生徒の非違行為に対する行為が1回のみで、被害児童生徒が1人の場合 | 校長指導 |
傷害がなく、児童生徒の非違行為に対する行為が複数回の場合 | 文書訓告 |
傷害がなく、非違行為のない児童生徒に対する行為が複数回の場合 | 減給(3ヶ月) |
非違行為のない児童生徒に対する行為で、傷害がある場合 | 停職(1ヶ月) |
(表は大阪市教育委員会「体罰・暴力行為等に対する処分等の基準について」[体罰・暴力行為に対する処分等の基準]をもとに作成:https://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000498/498269/02kijyun.pdf)
(参考:地方公務員法|e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000261)
体罰を受けたときに弁護士に相談するメリット
自分の子どもが受けた体罰について、証拠を集めたり損害賠償を請求したりするには、法律の知識が欠かせません。また、学校側が教師を擁護したり、事実を隠蔽(いんぺい)したりする可能性もあるため、自力で解決するのは困難です。
法律の専門家である弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
- 証拠の集め方についてアドバイスしてもらえる
- 教師や学校、教育委員会とのやり取りを任せられる
- 適切な損害賠償を受けられる可能性が高まる
体罰があることを知った時点で、自分で行動する前に一度弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
身体的侵害や肉体的苦痛を与える「体罰」は、学校教育法第11条で禁止された行為です。体罰に対して、民事での損害賠償請求や刑事告訴、懲戒処分を促すなどの対応が可能です。また、体罰に該当しなくても、不適切な指導として対応を求めることが可能な場合もあります。
ただ、責任を追及するにしても、自力で学校相手に争うのは容易ではありません。弁護士に依頼し、証拠集めのアドバイスを受け、学校や教師とのやり取りを任せるのが賢明です。
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