試用期間中の社員を能力不足で解雇したい|退職勧奨の進め方と注意点
不当解雇退職勧奨企業にとって試用期間は、労働者の能力や適性を評価するために設ける期間です。しかし、試用期間中とはいえ労働契約は成立しており、期間の途中または満了時に労働契約を解消することは「解雇」とみなされます。
解雇の手続きにはリスクが伴い、正しい方法を取らなければ「不当解雇」とみなされ、法的なトラブルに発展する可能性も少なくありません。
そこでこの記事では、試用期間中の社員の解雇について解説しつつ、退職勧奨の進め方や注意したいポイントについて解説します。
目次
【再確認】試用期間中の社員の解雇について
まずは「試用期間中の解雇」に関して確認しておきたいことがあります。ここで詳しく説明します。
試用期間とは
試用期間とは、企業が労働者を本採用する前に、社員としての適性や能力を判断するために設ける期間のことです。応募書類や面接だけでは労働者の能力をすべて判断するのは難しいため、試用期間を設ける企業は多く存在します。
試用期間の長さは、一般的には1ヶ月〜6ヶ月程度です。試用期間中であっても労働契約は成立しており、待遇も正社員と大きな変わりはありません。試用期間中に解雇することは可能ですが、正当な理由が必要です。
「本採用の拒否」と「試用期間中の解雇」の違い
「試用期間中の解雇」と「本採用の拒否」は、どちらも「本採用しない」という意味では同じですが、そのタイミングが異なります。
・本採用の拒否:試用期間満了時に採用を拒否すること
・試用期間中の解雇:試用期間中に解雇の決断をし、雇用契約を終了させること
上記のどちらのタイミングであっても、労働契約を解消する場合には客観的に合理的な理由が必要です。なお、試用期間は「教育期間」ともみなされることから、期間中の解雇は「本採用の拒否」よりもハードルが高くなります。
「どうしても期間中に解雇しなければならない」という緊急性が求められる場合でない限りは、試用期間満了時までは教育による改善を図るのが賢明です。場合によっては、試用期間の延長も視野に入れたほうがよいでしょう。
試用期間に解雇が認められる事由
試用期間は企業にとって「社員の適性」を見極めるための期間ではありますが、能力不足や適性不足を理由に解雇する場合には、具体的な状況証拠や評価基準をもって判断する必要があります。解雇が妥当とみなされるためには、以下のような状況があると判断される必要があります。
・通常の業務をこなすのが困難である
・指導を行ったにもかかわらず業務における改善が見られない
上記の状況を証明するためにも、試用期間中に社員の行動や業務能力を記録し、改善を促すアクションが必要です。
なお、能力不足以外で解雇が認められる可能性がある事由としては、「欠勤・遅刻を繰り返している」「協調性がない」「重大な経歴詐称」などがあります。
試用期間中の社員を能力不足で解雇するのは難しい
試用期間中の社員を能力不足で解雇するには、通常の解雇と同様に客観的に合理的な理由が必要であり、簡単ではありません。不当解雇とみなされた場合のリスクも存在します。ここでは、解雇が難しい理由や不当解雇のリスクについて解説します。
解雇の合理性を証明しにくい
試用期間は「教育期間」でもあります。試用期間中に社員を能力不足で解雇することは、会社側の指導力不足とみなされるケースも少なくありません。特に未経験者や新卒者への解雇は、「社員の能力不足なのか」「企業側の指導力不足なのか」が厳しくみられます。
また、試用期間中の解雇を争って裁判に発展することもあります。具体的な能力不足を立証するためには、社員の業務状況を客観的に示す資料や改善のために指導した内容など、証拠を用意することが大切です。
解雇が不当とみなされた場合のリスク
不当解雇と判断された場合、企業は未払い賃金を含めた損害賠償や慰謝料の請求を受けるリスクが発生します。また、不当解雇が世間に知られてしまうと、企業の評判が低下し、今後の採用活動に支障をきたす可能性があります。
不当解雇の解決金については、次の記事を参考になさってください。
参考記事:【ケース別】不当解雇の解決金相場|有利に進める方法とは?
【5つの手順】試用期間中の社員を能力不足で解雇したい|退職勧奨の進め方
試用期間中の社員との労働契約を終了させる方法には、「解雇」や「本採用の拒否」以外にも、退職勧奨があります。退職勧奨とは、企業側が社員に対して退職を勧めることです。解雇とは違って法律上のルールや条件がなく、社員の合意が得られれば退職手続きが進められます。
退職勧奨は違法ではなく、解雇よりも法的なリスクが少ない点がメリットです。一方で、社員を説得するための手間がかかるうえに、同意が得られなければ雇用関係は継続します。ここでは、退職勧奨の進め方を5つの手順で解説します。
退職勧奨の方針を社内で話し合う
まずは対象の社員について退職勧奨を進めるか否かを慎重に社内で話し合うことが大切です。関係部署と人事担当者が集まり、社員の退職勧奨の理由やリスクについて意見を共有し、方針を確認しましょう。
社内で方針を話し合うことは、退職勧奨が個人の意見ではなく、会社の総意であることを対象の社員に示すためにも必要です。
退職勧奨の理由を書面化する
次に、退職勧奨の理由を具体的に文書化しましょう。文書化することで、退職勧奨の際の説明をスムーズにでき、対象の社員に合理的な理由が伝わりやすくなります。内容には客観的な評価や事実を基に、企業側の意向が分かりやすく示されているか確認しましょう。
社員を個室に呼び出して会社の意向を伝える
退職勧奨の際は、社員のプライバシーを確保することが重要です。個別面談で、会社としての意向を誠実に伝えると共に、社員に対する配慮も忘れずに進めましょう。
退職勧奨の際、相手が不快に感じないよう言葉に気をつけ、冷静で落ち着いた態度を心がけることが大切です。また、退職勧奨についての回答期限を伝え、十分に検討してもらいましょう。
退職日や解決金などの条件について話し合う
対象社員から退職の合意を得られた場合、退職日や解決金などの条件を確認しましょう。解決金は社員の退職後の負担を軽減する意味もあり、企業としての誠意を示すことにもつながります。
退職届を提出させる
退職届は、社員が退職勧奨に応じたことを示す重要な書類です。つまり、退職届を本人から提出してもらうことが、退職勧奨のゴールになります。とはいえ、退職後にトラブルが起こらないとは限りません。できる限りトラブルを防ぐために、必要な条項を盛り込んだ退職合意書を作成し、サインしてもらうことが大切です。
試用期間中の社員を能力不足で解雇したい|退職勧奨のポイントや注意点
退職勧奨は違法ではありませんが、注意したい点があります。ここでは、退職勧奨のポイントや注意点を解説します。
会話を録音する
退職勧奨する際の会話は、記録として録音しておくことをおすすめします。録音することで、後から「言った」「言わない」といったトラブルを防げます。また、「暴言を吐かれた」「退職を強要された」などと訴訟されるリスクも軽減できます。録音する際は、本人の同意を得ましょう。
ミスマッチであったことを伝える
対象社員に対しては「能力不足」という言葉を避け、できるだけ「業務や会社とのミスマッチがあった」という趣旨で伝えるのがポイントです。ミスマッチであることを明確に伝えることで、本人のプライドを傷つけずに話を進められます。
「退職強要」や「パワハラ」と判断されないように注意する
社員を退職させるために、以下のような行動を取るのはNGです。
・配置転換や仕事の取り上げ
・長時間・複数回に及ぶ退職勧奨
また、「社員を侮辱する言葉」「退職を強要する発言」なども避けましょう。不法行為に該当する場合があります。
退職勧奨する前に一度「田渕総合法律事務所」へご相談ください
社員との労働契約を終了させる方法として、退職勧奨は解雇よりも法的リスクが少ない手段ではあります。しかし、退職勧奨をきっかけにトラブルが発生するケースもあるため、安易に行動を起こすのは危険です。一度弁護士に相談し、法的観点に沿ってアドバイスやサポートを受けることをおすすめします。
大阪府堺市の堺東駅から徒歩5分の場所にある「田渕総合法律事務所」は、労働問題の解決実績が豊富にあります。状況に応じた退職勧奨の具体的な進め方をアドバイスでき、交渉や裁判手続きも代行可能です。Webでの面談も実施しているので、遠方の方もお気軽にお問い合わせください。
まとめ
試用期間中の社員を「能力不足」で解雇するのは簡単ではありません。そのため、法的リスクが少ない退職勧奨によって、社員から同意を得て、退職手続きを進める方法がおすすめです。しかし、退職勧奨には注意点があります。法的トラブルが発生するリスクを最小限に抑えるためにも、一度弁護士への相談を検討してみてください。