【堺 弁護士が解説】交通事故の死亡事故・重度後遺障害|保険会社の提示額、その金額で本当にいいですか
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示談書に判を押す前に、一度立ち止まってください
国道26号線、中央環状線、フェニックス通り。堺市を南北に走るこれらの幹線道路は、私たちの生活を支える大動脈である一方で、重大事故の多い場所でもあります。堺市立総合医療センター、関西労災病院、ベルランド総合病院。救急搬送された方が、重症のまま数週間、数ヶ月と治療を続けることがあるエリアです。
当事務所にご相談に来られる方の多くが、神妙なご様子でお越しになります。
お父様が植物状態になって3ヶ月、もう目を開けてくれるか分からない。ご主人が事故現場で亡くなった。高校生の息子さんが脊髄を損傷して、これから一生車椅子だと医師から言われた。そうした出来事をまだご自身の中で整理できないまま、「保険会社から示談の話が来たが、金額が適正か分からない」とお越しになるのです。
お伝えしたいことは、1点だけです。
死亡事故、あるいは後遺障害等級1級から3級のような重い後遺症が残る事故では、保険会社が最初に提示してくる金額は、本来受け取れる適正額の半分以下、場合によっては3分の1程度にとどまることがあります。そして一度示談書にサインしてしまえば、あとから「もっともらえたはずだった」と気づいても、ほぼ覆せません。
これだけは、示談書を前にする前に知っておいていただきたく、筆を執りました。治療段階の注意点は堺市の交通事故(重傷・入院・後遺障害)で「後悔しない」ためのチェックリストにまとめていますので、まだ入院中の段階であれば先にそちらもご覧ください。
保険会社の最初の提示額が、なぜこれほど低いのか
3つの算定基準と、「埋められる差額」
交通事故の賠償金には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)という3つの計算ルールがあります。面倒な話ですが、ここだけは押さえてください。
一家の大黒柱だった方が亡くなった場合の死亡慰謝料を例に挙げます。自賠責基準で出てくる金額は、被害者本人分400万円に遺族分を合わせてもおよそ1,350万円。保険会社が独自に設定している任意保険基準も、これと大差ない水準で提示されるのが通例です。ところが、弁護士が代理人として交渉する局面で使う弁護士基準では、同じケースで2,800万円が相場となります。慰謝料だけで1,400万円以上の開きです。
後遺障害慰謝料も同じ構図になります。最重度の1級に認定されたケースは、自賠責1,650万円前後に対して弁護士基準2,800万円。2級なら自賠責1,203万円に対して弁護士基準2,370万円。等級が上がるほど差は大きくなります。
桁が変わってくるのは、死亡逸失利益や将来介護費です。45歳・年収600万円・妻と子ども2人の大黒柱が亡くなったケースを試算すると、死亡逸失利益だけで7,000万円を超えます。死亡慰謝料2,800万円、葬儀費150万円を加えれば、賠償総額は1億円に届きます。保険会社が最初に出してくる提示額が3,000万円から5,000万円だったとして、「それは低すぎる」とご自身で見抜くのは、情報量の差からいってまず無理です。
被害が重いほど、増額の幅は桁違いになる
軽い追突事故で弁護士が入った場合、増額できるのは数十万円から数百万円の範囲にとどまります。ところが死亡事故、重度後遺障害の話になると、事情が根本から変わってきます。
世に出ている解決事例を見ると、保険会社が当初5,500万円と提示していた遷延性意識障害の事案が、訴訟提起を経て9,000万円で和解に至った例。保険会社が最終的に1億円しか認めなかった高次脳機能障害2級の事案で、医師の意見書を重ねた結果、2億5,000万円で決着した例。5,000万円から1億円規模の増額が、この分野では特別珍しいことではないのです。
なぜそれほど動くのか。答えは単純で、争点が多すぎるから、です。慰謝料の基準をどうするか。逸失利益の基礎収入をいくらに見るか。生活費控除率は何パーセントか。将来介護費は平均余命まで認めるか。過失割合は10対0か9対1か。素因減額はあるのか。家屋改造費はどこまで含めるか。近親者慰謝料はいくらか。これらの論点ひとつひとつで、金額が数千万円単位で動くのです。
示談は、やり直しがきかない
もうひとつ、重要なことを書いておきます。示談は法律上「和解契約」です。一度成立すれば、原則としてやり直しはできません。「計算してみたら、あと3,000万円もらえたはずだった」と気づいても、手遅れです。
例外として、示談の時点でおよそ予見できなかった後遺障害が後から判明した、といった極端なケースで再請求が認められた裁判例はあります。ただ、そのハードルはかなり高く、多くの事案では「示談書にサインした瞬間がゴール」と思っておいた方が現実的です。
だから、死亡事故・重度後遺障害の事案こそ、サインする前に弁護士の金額査定を受けていただきたい。受けていただいたうえで、ご自身で納得してサインなさる分には、何の問題もありません。
死亡事故で「本来もらえる金額」はいくらなのか
死亡慰謝料の相場と、増額される事故の条件
死亡慰謝料は、亡くなった本人の精神的苦痛と、ご遺族固有の苦痛を合わせて評価されるお金です。弁護士基準の目安は、一家の支柱で2,800万円、母親・配偶者で2,500万円、独身の男女・お子様・ご高齢の方が2,000万円から2,500万円。これが「赤い本」と呼ばれる日弁連交通事故相談センター東京支部の基準です。
あくまで標準値で、事故の悪質性が高ければ相場の2割増、3割増が認められた裁判例もあります。飲酒運転、信号無視、ひき逃げ、救護義務違反、被害者が妊娠中で胎児も一緒に亡くなった。こうした事情は、慰謝料を上に押し上げる材料になります。
死亡逸失利益|主婦・学生・高齢者・自営業者は争点になりやすい
死亡逸失利益は、「生きていれば得られていた収入」を金銭評価するものです。計算式は、基礎収入×(1−生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数。
サラリーマンなら前年の源泉徴収票がそのまま基礎収入になるので争いは少ないのですが、問題は主婦・学生・高齢者・自営業者・会社役員のケースです。
主婦は家事労働の評価が焦点になります。保険会社は賃金センサスの女性全年齢平均を出してくることが多いのですが、お子様の年齢、介護の有無、同居家族の数、外で働きながら家事もしていた共働き家庭かどうかで、適正な基礎収入は変動します。
自営業者は申告所得が基礎収入になるのが原則ですが、節税のために実態より低く申告していた方が多い。通帳の流れ、領収書、家族への給与の処理、このあたりを一つずつ立証して、実収入に近づけていく作業になります。
会社役員はもっと込み入っていて、役員報酬のうちどこまでが「労務対価部分」で、どこから先が「利益配当的部分」か、という整理が必要になります。「あなたは経営者であって労働者ではないから、逸失利益は低く見るべき」という論理に、どう反論していくか、ということです。
生活費控除率は、一家の支柱で被扶養者1人なら40%、被扶養者2人以上なら30%、独身男性なら50%、女性なら30%が目安。数字を1割動かすだけで、総額が数百万円ぶれます。
葬儀費と、「誰が示談できるか」という壁
葬儀費は、自賠責では一律100万円、弁護士基準では原則150万円を上限に実費です。宗派上の儀礼、遠隔地での二度葬など、特別な事情があれば150万円を超えて認められた例もあります。
死亡事故で忘れがちな論点に、「誰が示談交渉の当事者になれるのか」があります。損害賠償請求権は亡くなった被害者のものですが、本人が亡くなっている以上、権利は相続人に引き継がれます。示談交渉や訴訟を動かすのは、原則として相続人全員です。
ご主人が亡くなり、相続人が奥様とお子様2人ならまとまりやすいでしょう。ただ、被害者が独身でご両親もすでに他界し、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、兄弟間で意見が割れて話が止まることがあります。内縁の配偶者や事実上の養親子関係にあった方は、原則として法定相続人にはなりませんが、近親者慰謝料(民法711条)の固有の請求権は事案によって認められてきました。
遺族構成が複雑な事案は、賠償の受け皿を整える前に、相続人の確定と遺産分割の方向性を整理する作業が先に来ることもあります。関連の論点は遺産分割をめぐる兄弟姉妹間の争いにも書いていますので、相続関係に不安のある方は合わせてご覧ください。
重度後遺障害(1級〜3級)の賠償金
代表的な3類型|高次脳機能障害・遷延性意識障害・脊髄損傷
重度後遺障害の交通事故で特に問題になるのが、次の3類型です。
高次脳機能障害は、頭を強く打ったあとに脳の機能に障害が残るもの。見た目は普通に歩けて話せるのに、記憶が続かない、集中力が保てない、計画を立てて仕事ができない、感情のコントロールが効かず人が変わったようになる、といった症状が出ます。ご家族から「事故の前と後で別人になった」と言われることが多く、画像所見と本人の日常生活状況をどう突き合わせるかが難しい類型です。
遷延性意識障害は、一般に「植物状態」と呼ばれる状態に近いもので、意思疎通が困難、食事・排泄・清拭まで他人の手が要る状態です。ほとんどのケースで1級1号が認定されます。
脊髄損傷は、背骨の中を通る脊髄が損傷することで、四肢麻痺や対麻痺、排尿・排便障害が残ります。損傷が頚髄の高位なら四肢麻痺で1級1号、胸髄・腰髄なら対麻痺で2級1号が目安です。
等級別の慰謝料と、見落とされがちな「近親者慰謝料」
後遺障害慰謝料の弁護士基準は、1級2,800万円、2級2,370万円、3級1,990万円、5級1,400万円、7級1,000万円、9級690万円。自賠責だと1級1,650万円、2級1,203万円、3級861万円なので、差はやはり大きい。
見落とされやすいのが、被害者本人の慰謝料と別に、ご家族に認められる「近親者慰謝料」です。民法711条が定めるもので、配偶者・親・子を中心に、重度の後遺障害を負った被害者の苦痛に「準じる」ほどの精神的苦痛を受けたご家族に、1人100万円から250万円、事案によっては複数人合計で1,000万円以上が認められた裁判例があります。
このお金、保険会社から自発的に提示されることは、ほぼありません。弁護士が主張して、立証して、初めてテーブルに乗ります。
後遺障害逸失利益|「症状固定後に働けた」と言われたら
後遺障害逸失利益は、「後遺障害が残ったことで、将来の労働能力がどれだけ失われたか」を評価するお金です。計算は、基礎収入×労働能力喪失率×喪失期間のライプニッツ係数。
労働能力喪失率は等級ごとに目安があり、1〜3級は100%、5級79%、7級56%、9級35%、14級5%。被害者の職業や年齢で微調整が入ります。
この項目で保険会社が打ってくる代表的な主張が、「症状固定後に復職できた」「再就職した」という事実を出してきて、喪失率や喪失期間を圧縮してくるパターンです。「仕事ができているのだから喪失率は等級表より低いはず」「いずれ慣れるから喪失期間を短くすべき」という論法ですね。
これは、そう単純な話ではありません。高次脳機能障害を負った方が、ご家族と職場の協力でなんとか復職できたとしても、事故前と同じパフォーマンスは出せないことがほとんどです。上司の配慮、同僚のフォロー、業務内容の調整。そうした見えない支えでなんとか席に座っている状態が、逆に「喪失率を下げる材料」にされてしまうのは、どう考えても筋が通りません。
医師の意見書、職場関係者の陳述書、事故前と事故後の業務内容の比較、残業時間や担当範囲の変化。こうした材料を積み上げて、「復職できた事実」が賠償額の切り下げに使われないよう、反論していく作業が要ります。
将来介護費|平均余命と近親者介護単価という2つの戦場
後遺障害1級・2級では、将来介護費が損害として認められます。3級以下でも、症状次第で認められた裁判例があります(名古屋地判平成25年3月19日など)。
計算は、1日あたりの介護費×365日×平均余命のライプニッツ係数。1日あたりの金額は、近親者介護で原則8,000円、症状の重さによっては1万円から1万5,000円、職業介護人を頼む場合は実費(1日1万5,000円から3万円程度)です。
この項目で保険会社が使う最大の手口が、「平均余命の短縮主張」です。遷延性意識障害や重度の脊髄損傷の方は、感染症や合併症で通常人より短命になりやすい、だから将来介護費の認定期間も短くすべきだ、という論法。
ここで安易に引いてしまうと、数千万円単位で介護費が削られます。40歳で遷延性意識障害を負われた方を想定して、近親者介護1日1万円、平均余命40年分で計算すると、1万円×365日×40年分のライプニッツ係数(25.103前後)でおよそ9,162万円。これが「余命20年」と切り下げられれば、4,574万円にまで下がります。4,500万円以上の差です。
ただ、近年の裁判例は平均余命までの介護費を認める方向が大勢で、医学的な生存見込みを示す医師の意見書と、ケア状況の報告書、類似判例を揃えれば、十分に跳ね返せる論点です。黙って受け入れる必要はありません。
家屋改造費・装具費・自動車改造費
脊髄損傷で車椅子生活になった方の場合、バリアフリー工事、段差の解消、手すりの設置、浴室・トイレの改造、車椅子対応車両への改造費、電動車椅子、特殊ベッド、呼吸器、吸引機、褥瘡予防マット。生活を維持する費用は多岐にわたります。
結論から言えば、交通事故との相当因果関係が認められる範囲で、将来の買い替え費用も含めて請求可能です。車椅子は10年ごと、家屋は20年から30年ごとの改修を見込んで計算する、というのが実務の流れ。
ただし、被害者側がここまで細かく主張しない限り、保険会社が自発的にこれらをテーブルに乗せてくることは、ほぼありません。医師、ケアマネジャー、理学療法士、福祉用具専門相談員。必要性について意見を出せる立場の方を早めに巻き込んで、書面にしていく作業が欠かせません。
交渉の現場で保険会社が使う「典型的な6つの手口」
ここからは、死亡事故・重度後遺障害の示談交渉で、保険会社側が実際に繰り出してくる代表的な主張と、反論の勘所をお伝えします。
手口1:将来介護費の平均余命短縮
既に触れた通り、「重度障害の被害者は短命だから」という論法。医師意見書と近年の裁判例で跳ね返します。
手口2:素因減額
被害者にもともと持病(頸椎症、腰椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、骨粗しょう症、認知症の初期症状)や心因的要因(心配性の性格、うつ病傾向)があったことを持ち出して、「損害の一部はあなたの素因によるもの」として減額を主張してくる手法。
ここで必ず知っておくべき判例が、最高裁平成8年10月29日判決。「首が人より長く頸椎不安定症があっても、それは疾患ではなく個体差の範囲の身体的特徴に過ぎない。素因減額の理由にならない」という判断で、身体的特徴と疾患の線引きを示しました。保険会社が「素因減額3割」と切り出してきたときに、この判例を知っているかどうかで、交渉のスタート地点が変わります。
手口3:過失割合の引き寄せ
本来10対0のもらい事故でも、「被害者にも前方不注視があった」「横断歩道外を渡っていた」として、1割から2割の過失を乗せてくる手法。賠償総額1億円の事案で過失が1割動けば、それだけで1,000万円の話です。ドライブレコーダー、実況見分調書、目撃者供述、現場の防犯カメラ映像を集めて、別冊判例タイムズ38の338類型に沿って反論していきます。
手口4:基礎収入の低額固定
主婦・学生・高齢者・自営業・会社役員について、実態より低い基礎収入で出してくる手法。家事労働の内容、事業の実態、役員報酬の内訳を一つずつ立証して、適正な水準に引き戻していきます。
手口5:生活費控除率の引き上げ
死亡逸失利益で、本来40%の控除率を50%にしてくる、といった細かい詰め方。金額は地味に見えますが、逸失利益の総額が大きい事案では、影響額が数百万円になります。
手口6:後遺障害等級の実質的な格下げ主張
自賠責で1級認定されたにもかかわらず、民事の交渉では「実態は3級相当」「労働能力喪失率は79%程度が相当」と言ってきて、逸失利益の計算基礎を切り下げてくるパターン。認定経緯、後遺障害診断書、主治医意見書、日常生活状況の陳述書で、認定等級の妥当性を守り抜く必要があります。
弁護士が入ると、実際にいくら変わるのか
相談で最もよく聞かれるのが、「弁護士に頼んだら、本当にそんなに金額が変わるのですか」というご質問です。ざっくりした目安ですが、次のような水準感でお考えください。
死亡事故で、45歳・会社員・一家の支柱・被扶養者2名という事案なら、保険会社の初期提示が3,000万円から5,000万円、弁護士介入後の決着が8,000万円から1億2,000万円といった幅になります。増額幅は3,000万円から7,000万円。
後遺障害1級・遷延性意識障害(40歳・会社員)の事案なら、初期提示5,000万円から8,000万円、最終決着1億円から2億円。増額原資は、将来介護費、逸失利益、家屋改造費、近親者慰謝料が中心です。
後遺障害2級・高次脳機能障害(35歳・会社員)の事案なら、初期提示3,500万円から6,000万円、最終決着8,000万円から1億5,000万円。将来介護費と逸失利益の詰め直しが主な増額ポイント。
もちろん個別事情で数字は動きますが、「相談してみるだけの価値はある」という構造は、このクラスの事案ではほぼ例外なく成り立ちます。
弁護士費用が不安な方へ
弁護士費用について、ご心配になるのは当然のことです。ただ、交通事故の分野では、思っていたほど重くならないことが多いので、その仕組みをお伝えしておきます。
ひとつが、弁護士費用特約。ご自身の自動車保険、または同居のご家族の保険に弁護士費用特約が付いていれば、1事故300万円を上限として、弁護士費用を保険会社が負担します。軽症から中傷の事案なら、この枠内で収まります。お財布からの持ち出しはゼロです。
重症事故・死亡事故で弁護士費用が300万円を超えるケースでも、特約で使える分は使って、超過部分だけご自身にご負担いただくという運用が可能です。「自分は特約に入っていない」と思っていても、同居のご両親の保険や、事故当時に搭乗していた車の所有者の保険に付いていれば、多くの場合ご利用可能です。使い方は交通事故における弁護士特約の使い方|3つの手順にまとめています。
もうひとつが成功報酬制。特約が使えない場合でも、交通事故事件では、獲得した増額分の一定割合を成功報酬としていただく運用が広く取られています。重症事故・死亡事故では増額見込みが数千万円単位なので、弁護士費用を差し引いてもご依頼者の手元に残る金額の方が大きくなるのが通例。ご相談時に「増額の見込み」と「弁護士費用の目安」をお伝えし、費用倒れになりそうなら率直にその旨お話しします。依頼を強く勧めることもしません。
知っておくと差が出る|人身傷害補償保険と訴訟基準差額説
ここから先は、一般のウェブ記事ではあまり触れられない専門的な話ですが、過失割合のある重症事故では、知っているかどうかで数百万円から数千万円動く論点です。
ご自身の自動車保険に人身傷害補償保険が付いている場合、被害者は、加害者からの損害賠償とは別に、ご自身の保険からも保険金を受け取れます。この保険金は、約款上の基準(自賠責に近い水準)で計算されるのが通常です。
問題は、過失割合のある事案で、先に人身傷害保険から一部を受け取ったあと、加害者側に追加請求するときの計算方法です。
最高裁平成24年2月20日判決は、この場面で「訴訟基準差額説」という処理を認めました。ざっくり言うと、人身傷害保険からの既払金を「被害者の過失部分」に先に充当できる、という考え方です。
具体例で説明します。弁護士基準での総損害額1億円、過失割合が被害者2・加害者8の事案。先に人身傷害保険から3,000万円を受け取っていたとします。
単純計算だと、加害者への請求可能額は「1億円×0.8−3,000万円=5,000万円」になりそうなところ。ところが訴訟基準差額説を適用すれば、人身傷害の3,000万円は「被害者の過失2割相当分の2,000万円」にまず充当し、残る1,000万円だけを加害者負担分から控除する、という処理になります。請求可能額は「8,000万円−1,000万円=7,000万円」。差は2,000万円です。
この論点、被害者側が主張しない限り、保険会社が自発的に当てはめてくることはまずありません。人身傷害補償保険を契約しているご自身・ご家族が重症事故に遭われたときは、必ず確認してください。
堺市で相談のタイミングを取る
堺市内の事故現場と、搬送先としての救命救急
堺市の重傷事故は、国道26号線、中央環状線、フェニックス通り、阪神高速湾岸線といった幹線道路で起きることが圧倒的に多い印象です。車同士の出会い頭や追突だけではなく、バイクや自転車との事故、横断中の歩行者事故、泉北ニュータウンのニュータウン内道路での事故、美原区の農地と住宅地が混在するエリアでの事故など、現場の特性によって過失割合の基本構造が変わってきます。
重症の場合の搬送先は、堺市立総合医療センター、関西労災病院、ベルランド総合病院、大阪労災病院(堺市外ですが圏内)。ここで撮影されたCT・MRI画像、看護記録、リハビリ記録は、後遺障害等級認定とその後の賠償交渉で決定的な意味を持ちます。カルテと画像の開示請求は、できれば退院前、遅くとも退院直後に着手したい作業です。実務の流れは交通事故で「物損」のままにしない|後遺症が残りそうな人身傷害の初動対応にも書いています。
ご相談のタイミング|「いつお声がけいただけるか」よりも大切なこと
「早ければ早いほど良い」と書きたいところですが、現実はそう単純ではありません。お身内が集中治療室に入っている段階で、賠償金の話を弁護士にする余裕のあるご家族は、まず、いません。
そこを踏まえたうえで、目安としての相談タイミングを書いておきます。
入院中(治療方針の大きな分岐が見えたあたり)は、保険会社の「一括対応」の窓口を弁護士に引き継ぐことができるタイミング。余計な電話と書類対応から解放されるだけでも、ご家族の消耗が減ります。
症状固定が見えてきた段階(およそ半年から1年後)は、後遺障害等級認定の準備で弁護士が最も効果を発揮する時期。後遺障害診断書の記載ひとつで認定等級が変わる事案は、本当に多い。
保険会社から示談案が届いた直後が、多くの方が相談に来られる典型的なタイミング。提示金額を基準別に査定して、増額見込みと弁護士費用を天秤にかけて、ご依頼の可否を決めていただきます。
死亡事故のご遺族は、四十九日前後に「葬儀がひと段落した」タイミングでお越しになる方が多いです。相続人の確定、委任関係の整理、自賠責への被害者請求、刑事裁判の被害者参加手続。この時期にまとめて整理しておきたい論点があります。
入院中の慰謝料の相場、人身事故で保険会社に請求できる慰謝料についても、必要に応じて合わせてご確認ください。
よくあるご質問
Q:加害者が任意保険に入っていませんでした。泣き寝入りでしょうか。
自賠責保険からは、死亡事故3,000万円、後遺障害1級4,000万円という上限で支払があります。これを超える部分は加害者本人の資力に頼るしかなく、現実には回収困難なことが多いのが実情です。ただし、ご自身の自動車保険に人身傷害補償保険や無保険車傷害保険が付いていれば、そちらから相当額が補償される可能性があります。諦める前に、ご自身と同居のご家族の保険を全部当たってください。
Q:ひき逃げで加害者が分かりません。
政府保障事業(自動車損害賠償保障法72条)という救済制度があります。自賠責保険相当額を国が肩代わりして支払う仕組みで、窓口は任意保険会社や共済。ご自身でも手続できますが、必要書類が多めなので、弁護士に任せる方が多いです。
Q:事故から3年以上経ってしまいました。もう間に合いませんか。
人身損害の消滅時効は事故時(または損害・加害者を知った時)から5年、物損は3年。死亡事故の近親者慰謝料も5年です。重症で症状固定が数年後になる事案では、時効の起算点が後ろにずれることもあります。諦める前にご相談ください。
Q:兄弟で示談金の分け方で揉めています。
死亡事故では相続人全員の合意がないと、最終的な示談はまとまりません。中立的な立場で各相続人の利害を整理しながら、示談交渉と並行して相続人間の合意形成を進める、という役回りも弁護士が担えます。
Q:刑事裁判は、民事の賠償に影響しますか。
重症・死亡事故では、加害者に過失運転致死傷罪、場合によっては危険運転致死傷罪が適用されます。ご遺族・ご本人は被害者参加制度で意見陳述や質問ができ、加害者の刑事責任の重さは、民事の慰謝料増額理由や近親者慰謝料の金額に影響することがあります。刑事と民事を一体で管理できる弁護士に依頼することで、ご遺族の時間的・心理的な消耗は、だいぶ違ってきます。
最後に
交通事故でご家族を亡くされた方、重度の後遺障害を負われた方にとって、賠償金は「失われた命や健康の対価」ではありません。それは、誰よりも弁護士である私たちがよく分かっているつもりです。
それでも、これからのお子様の教育、介護の体制、ご自身の生活を支えていくために、適正な賠償金を受け取ることは、現実として欠かせません。そして、その適正な金額は、保険会社がお膳立てして出してくれるものではなく、主張して、立証して、初めて取ってこられるものです。
堺東駅西口から歩いて5分、大成第2ビルの5階。まだお身内が入院中で整理がついていない段階でも、示談の話がまだ出ていない段階でも結構です。一度お立ち寄りいただければ、その時点でできることをお話しします。
お問い合わせフォームはこちら、お電話は072-248-4848(平日9時〜19時、土日は要予約で相談可能)。ご予約は24時間お受けしています。
